タカコや、ヨシロウが眠っているはずのお墓が、リエの目の前で突然消えてしまったのです。そこにあった他のすべての墓石もなくなってしまい。緑色の芝生だけがどこまでも青い空の下に残っていました。
それだけではありませんでした。
リエの横に立っていたはずの夫も、夫が抱いていた赤ちゃんも、一人息子も、愛する家族がみんな消え失せてしまったのです。
一体何が起こったのかはリエには理解できません。
リエは、愛する家族を死に物狂いでさがしました。
どこまでも青い空です。
緑色の芝生もどこまでも続いています。
あまりに静かで、爽やかな風が吹き渡っていきます。
しかし家族はどこにもいませんでした。
いいえ気がつくとその広大な霊園には人間というものが誰1人いないのです。
さっきまでお墓参りに来ていた家族連などの人々までお墓と一緒に消えていました。
リエは、絶望的な叫び声をあげました。
これじゃまるで
「私だけが、死んでしまったみたいじゃない」
するとうしろから声がかかりました。
「そうだよ、おまえはとっくに死んでいたんだよ」
何と恐ろしいことばでしよう。しかしそれはあまりになつかかしく優しい声でした。
リエは振り返りました。
「お父さん!?」
ヨシロウでした。
リエがヨシロウを見たとき、今度は彼女の中に不思議な変化が起こり始めました。
自分の心の中のリエとしての人生、リエとしての思い出が、まるで積み木のようにガラガラ崩れ始めたのです。
そして一つ一つ違う思い出が心の中に湧き上がり始めました。
まず思い出したのはあのタカコの納骨の日。
あの時、突然現れたヨシロウをリエは激しく責めました。
「お父さんなぜ家を出たの? お父さんが逃げ出さなければタカコは死ななかったのに」
でも
リエは、思い出しました。お父さんは子供たちを置いて家出したのではなかったことを。
あのタカコの納骨の日の数年前に、ヨシロウは病気で死んでしまっていたのです。
さらに思い出しました。
「そうだ、私、タカコの納骨の前にここにいたんだ」
以前、リエはそんなことを思ったことがあります。
「あの時も、ここにはどこまでも続く芝生と青い空しかなかった。あの時お父さんは既にここにいた。とっくに死んでたはずなのに」
あの時、ヨシロウはとても悲しそうな顔をしてリエにこういったのです。
「お前には私が見えるんだね。普通の人には、死んでしまった人の姿は見えないのに」
リエは、気がつきました
「そうか、ということは、あのとき私もすでに死んでたんだ。だから私お父さんの姿が見えたんだ」
そしてりえはもっと恐ろしいことをに気がついたのです。
第4話おわり