それから数年の時間が過ぎました。
あるクリスマスに近い、寒い夜のことでした。
街は、クリスマスイルミネーションの美しい点滅に飾られいます。
その街の中では特に目立つ高層ビルの屋上にリエはいました。
屋上は冷たい北風が吹いていました。
リエは死ぬつもりでした。姉のタカコの後を追いたいと思っていたのです。
そこはタカコが飛び降りたのと同じ建物でした。
タカコは屋上の手すりから下界のクリスマスのイルミネーションを見下ろしながら、これまでのことを思い出しました。
あの納骨の日からすぐに、ヨシロウが死んでしまいました。一人暮らしのアパートの部屋で冷たくなっているところを大家さんに発見されたのです。
一人ぼっちになったリエは、仕事を見つけサエコたちの住むあの家を出て一人暮らしを始め、ました。
それ以降当然ですが、サエコとユミコのいじめはなくなりリエは穏やかな日を過ごすことになりました。
サエコたちとはもう二度と会うことはあるまいと思っていました。
そのうちリエはトシキという同じ会社の上司と婚約しました。
トシキはまだ30にもならないのに、経理部の部長補佐でした。独身なので部長にはなれませんでしたが、所帯を持てば部長に昇進できるだろうとウワサされていました。やり手だったのです。
トシキはそれほど有能で、イケメンで笑顔がやさしい男でした。
しかし、トシキは、自分たちが付き合っていることを会社では口外しないようにリエに求めました。
会社では別に恋愛禁止ではありませんでしたから、トシキがなぜ2人のことを秘密にしたがるかはリエにはわかりませんでした。
これまで寂しい人生を送ってきたリエにはあまり気になりませんでした。むしろ男の人ってみんなこういうものなんだろうなぁと思っていました。
リエは結婚の報告をサヨコたちにするつもりはありませんでしたが、
「一応礼儀だから」
というトシキのたってののぞみで挨拶に行くことになりました。
しかしそれが間ちがいでした。あいさつの場に同席したユミコに、トシキは奪われててしまったのです。
イケメンで、大きな会社に役付きで金回りがいいトシキは、派手好きなユミコやその母親のサエコにとって、格好の「優良物件」だったのです。
その後ヨシロウはユミコやサエコの言いなりになり、リエに別れを告げたのです。
義理の妹や、愛する婚約者に裏切られ、それを婚約者から直接聞かされたリエの気持ちはどんなだったでしょう?
しかもそのとき、リエのお腹の中にはトシキの子供がいたのです。
あまりにも理不尽な出来事です。しかしリエはくじけませんでした。
父と母そして、タカコまで失ってしまい、もうリエには肉親は1人も残っていません。しかし彼女のお腹の中にはたった1人の肉親がいるのです。
それはリエにとって唯一の希望でした。
「私はこの子を育てていこう。たとえ自分が一人ぼっちになったとしても、この子だけは幸せに育ててみせる」
リエは固く決心しました。
第2話おわり
第3話につづく