タカコは若く、聡明でとても美しい女の子でした。あるクリスマスの夜、彼女は高層ビルの屋上から身を投げて命を絶ちました。
リエはタカコの双子の妹でした。リエとタカコはとても仲がよかったのに、
タカコがなぜ自殺したのか、リエにも他の人たちにもまったくわかりませんでした。
タカコは誰にも相談せず、遺書も残さなかったからです。
タカコたちの父親であるヨシロウはとても裕福でしたが、家庭の事情はとても複雑でした。タカコたちを生んだ母親は、2人が幼い時に交通事故で亡くなってなくなってしまったのです。
その後、父親のヨシロウはサエコというシングルマザーと再婚しました。
彼女はとても強欲で、結婚の目的はヨシロウの資産にありました。
サエコの連れ子のユミコは、
タカコよりも2歳年下でしたがとても可愛い顔立ちをしていました。でもその性格は母親のサエコに似て、我がままでとても意地悪でした。腹違いの姉であるタカコたちの洋服やアクセサリー学用品など気に入ったものをいつも自分のものにしていました。
そのことをサエコに告げても
「誰があんたたちにご飯食べさせてると思ってるのよ!」
サエコはいつも自分の娘の味方でした。
ヨシロウとサエコとの結婚生活もうまくいきませんでした。
ある時、ヨシロウは、家を出てしまいました。タカコたちを、サエコの家に残したまま。
当然、サエコたちのいじめはより激しくなりました。
タカコたちは食事や洗濯掃除などまるで使用人のように働かせられました。そうしなければ食事も与えてくれなかったのです。
そんな環境でしたが、もともと母親のぬくもりをほとんど知らなかったタカコはそんなことにはめげませんでした。
食事作りや掃除洗濯なんて、子供の時代からやってきたことなんです。
ですから、サエコやユミコのいじめくらいでタカコが自分の命を断ってしまうなんて、リエには到底考えられませんでした。
やがてタカコの納骨の日がやって来ました。
納骨とは死んでしまった人の骨を、お坊さん立ち会いの下にお墓に収める行事です。
納骨には親族が立ち会うものですが、その日にはリエとヨシロウしかいませんでした。
家を出たあと、タカコの葬式にも顔を出さなかったヨシロウは、どこからか聞きつけたのか、突然タカコのお墓に現れたのです。
そこはとても広い霊園でした。むこうの端が見えないくらい広く、緑色の芝生がどこまでも広がっています。その中に今風のとてもモダンな墓石が整然とどこまでも並んでいました。
リエはこの霊園はここにきたとき
「なんだか私、前にもここに来たことがあるような気がする」
そのお墓にはタカコだけでなく、タカ子たちを生んだ母親のお墓でもありましたが、それはタカ子たちが幼いときです。そのあとここに来たことはないはずでした。
「だけどわたしなんだか最近ここにきたような気がする」
しかし、リエにはそんなことをゆっくり思い出している心の余裕ははありませんでした。
納骨が終わってお坊さんたちが帰ってしまうと、シトシトと雨が落ちてきました。
リエたちは雨具も持っていませんでしたが、そこから離れることができませんでした。
何の理由も話さず死んでしまったタカコや、突然家出して突然現れたヨシロウにとても強い不信感があったからです。
しかしタカコはもういません。リエはモヤモヤする思いをヨシロウにぶつけました。
「今までどこへ行ってたのよ? お父さんさえいてくれたら、タカコはこんなことにはならなかったわのに」
ヨシロウは黙って下を向くだけで何も答えませんでした。
「どうして? お父さんはどうしてあの女と結婚したの? あの人を選んだのはお父さんでしょう? なのにどうして逃げ出してしまったのよ?」
うつむいていたヨシロウはそのまなざしをタカコに移しました。
「すまないな、情けない父親で。それよりお前1人で大丈夫かい? あの家で?」
リエは、カッと、腹が立ちました。
「大丈夫なわけないでしょう。でも私は負けない。お父さんみたいに逃げ出したり、タカコのように、自殺なんて絶対しないわ。私絶対に負けるものですか」
リエは父親と、納骨したばかりのタカコの墓石に向かってそう叫びました。
第一話終わり