ヘタレ師範6「五郎」後編

セブン─イレブンのお届けサービス セブンミール

 

道場破りとの試合は悲惨な結果に終わった。

 

テッキにオバサン、ガンカクにミヤギ、ジオンにミヒが立ち会った。

どの勝負も、最初に少しだけもみ合ったが、すぐに道場破り組が、優勢になり、

3人をボコボコに叩きのめした。

 

テッキ「いくら道場破りったってジジババと、女と戦ったのは初めてだぜ」

ガンカク「年寄りと女相手だから、少しは手加減してやったんだ。ほかの道場相手ならこんなにやさしくないんだぜ」

ジオン「どうでもいいよ、そんなこたあ。おいそこのヘタレ師範さんよ、これであんたの弟子はみんなぶっ倒したんだ。こんどこそ相手をしてもらうぜ」

 

五郎の顔が青くなった。

「だ、だめですよ。ぼ、ぼくは戦いませんから」

オープントーナメントのときと同じような泣き言だった。

 

ジオン「なんだよ、テメエそれでも男かよ。弟子はあんな年寄りでもちゃんと戦ったんだ。あたしはね、感心してんだ。師範のお前を守るために、あんなに弱いなりに一生懸命戦ったってのに」

 

ミヒがふらりと立ち上がった。

「ちょっと、姉さん。誤解してるよ。あたしたち弱くなんかない。この道場でサンバガラスね」

岩鶴が笑い出す。

三羽烏だあ? ジジババに、韓国女が三羽烏? 笑わせんじゃねえや」

 

ミヒ「それに五郎ちゃんが戦わないのはね」

 

テッキ「怖いんだろ? まあどこの道場にもいるけどな、ふんぞり返っているけど、実力のともなわない師範てのはさ。ここの師範もその口か」

 

五郎「そ、そうです。ぼく実力全然ないんです。それに‥‥」

ガンカク「それに? それに何だよ?」

 

五郎「あの、ミヤギのオジサンもオバサンも、それにミヒだって、あなたがたにまだ負けてはいませんから」

ジオン「なんだと?」おまえ、また卑怯な言いわけを‥‥」

 

ジオンが五郎に喰ってかかると五郎はとたんに下を向いてしまった。気の弱い男だ。

「ボクは、自分の弟子が勝ったというし、あなたがたは自分たちの勝ちだというし‥‥」

 

テッキ「だったらもう一度やればいいだろうが、それでシロクロはっきりするじゃねえか」

 

「あのぼく、シロクロはどっちでもいいんです。どっちが勝手も負けても‥‥それが勝負だし」

 

これにはジオンたちはあっけに取られた。

 

すると、ミヒが真剣な顔をしてこう言った。

「ごめん、五郎ちゃん、ワタシ今度は本気で戦いたい」

五郎「‥‥え?」」

ミヒ「五郎ちゃんの言う通り、わたしもシロクロどうだっていい。強いも弱いも関係ない。でも、こんなシロウトさんたちに誤解されたままなのはいや!」

ジオンはオープントーナメントの会場で、ミヤギに「おまえたちのほうがよっぽどシロウトだよ」と言われたことを思い出した。

 

おずおずとミヤギのおじさんが立ち上がる。

「五郎ちゃん、俺からもお願いする。こいつらと普通に戦わしてくれよ。そしたらわかるんだから、それで納得すれば、こいつらだって、もう五郎ちゃんと戦おうとは言わないだろうし」

ジオン「もう五郎ちゃんとは戦うおうとは言わないって、さっきのシロウト発言といい、こいつら、俺たちが負ける前提で話してる」

 

ミヤギは続けた。

「この間、こいつらに俺と嫁さんも約束したんだ。なぜ五郎ちゃんが買ったかを説明してやるって、だから」

ミヒが

「そんなことより、ワタシこの人たちとまともに戦ってみたいよ。私たちは確かに全然負けてないけど、でもこの人たちは全然わからない。自分たちが勝った勝ったと自慢するんだから。それ私いやだ。五郎ちゃんあまりにもかわいそう」

 

それでも五郎は二度目の戦いを許可しようとしなかった。

すると宮城のおばさんが。

「私悪いけど、五郎ちゃんとの約束破るよ」

 

そう宣言するとオバサンは、ポカンとしているテッキの前に進み出た。

そして、今まで見せなかった般若のような表情になって

「おいちょんまげ頭?!」

テッキはびっくりした

「ちょんまげってって俺の事かよ?  なんでおばさん、おっかない顔して。なんだまたノサれたいのか?」

「かかってきな」

「婆、ふざけやがって」

テッキは言いなり、さっきと同じ上段回し蹴りを放った。さっきはそれでおばさんを倒したのだ。

しかし今度は倒されたのはテッキの方だった。

おばさんはただ普通に前屈に進んで順突き(おいづき)を普通に打ち込んだだけだった。

 

立った姿勢から前屈に進むと少し背が低くなる。

テッキの回し蹴りはおばさんの頭上を越えて行った。

おばさんの順突きは、テッキのみぞおちを狙ったものだったが、回転するテッキの脇腹に突き刺さった。

おばさんの順突きも、最初に戦った時と全く同じ技である。

しかし1つだけ違っていたのは、最初は寸止めだったが、2度目はフルコンタクトで打ち込んだだけだった。

テッキは脇腹を抑えてのたうち回った。

 

テッキは脇腹を抑えてのたうち回った。

「まぐれだ! 偶然じゃねえか!」

大声でガンカクが飛び出してきた。

 

最初の試合では、ガンカクはミヤギをタックルし、チョーク攻撃で気絶させたのである。

ミヤギ「やれやれ、やってみせないとわからないんだな。わかったよ相手をしてやるよ」

 

出てくる宮城をミヒが止めた。

「おじちゃん、今度私やるよ。いいから休んでな。おじちゃんもう年なんだからさぁ」

 

自分の前に立った小柄なミヒを見てガンカクはうんざりした。

「俺はなぁ、女と戦うのは嫌いなんだよ。でもまぁ女にもいろいろあるからなあ」

そう言ってガンカクはジオンを見た。かつてジオンと戦って遅れをとったことを思い出した。

ジオンは少し笑ったように見えた。そしてガンカクに戦うように促した。

ガンカクとミヒが向かい合った。

テッキ「まるで美女と野獣じゃねえか」

ガンカク「女だからって容赦しねぇぜ、俺がプロレスラーだってことを忘れんなよ」

「自慢は、勝ってからいいな」

「Wow!」

ガンカクはさっきと同じようにミヒにタックルを仕掛けて飛び込んできた。

ミヒはガンカクを避けようとせず、立った姿勢から前屈に進んだ。

ミヒのひざが、ガンカクの顔面にぶち当たった。

ぶち当たったと言うより、ミヒは前屈に普通に進んだだけである。それに対してガンカクは勢い良く飛び込んだので、ガンカクの受けた衝撃は非常に多かっただろう。

ガンカクは「ぎゃー?!」と叫んで顔面を両手で抑えた。その指の隙間から鼻血が滴り落ちてきた。

しかしガンカクは、立ち上がることができなかった。

 

一同は唖然とした。

特にジオンはあっけにとられていた。自分がガンカクを倒したとき、三回も攻撃してやっと倒したのだ。しかしこの韓国小娘は、たった一撃でガンカクを仕留めてしまったのだ。しかも対した攻撃技とも思えない、前屈立ちの膝だけで。

 

ジオンは今まで、こんな戦い方を見た事はなかった。

彼女は、認めるわけにはいかなかった。

 

ジオン「ざけんじゃねえ、こんな試合認めるわけにはいかないよー!」

そして自分は五郎に詰め寄り

「第一、てめえは1度も戦ってねーじゃねーか。戦え! この俺とサシで勝負しろ! そしたら認めてやるよ。オメエが師範だってことをよ。俺たちが負けたってことをよ」

 

五郎は下を向いたまま

「僕たちは、勝ち負けはあんまり興味ないんです。それに僕はあなたより強いか弱いかなんてどうでもいいんです」

とんでもない言葉である。ヘタレとは言え、1道場の師範が、勝ち負けにこだわらない、強さに興味がないと言い放ったのだ。

「だったらなんで道場なんてやってんだよ? 強さに興味がないんだったら、お前ら何のために練習したんだ?」

 

五郎は下を向いたまま、恥ずかしそうにこういった

「生きるためですけど‥」

これにはジオンもガンカクもテッキもポカンとなった。

テッキ「生きるって? 生活のためかよ?」

 

ガンカクが何とか立ち上がった。彼の表情はこれまでとは違っていた。

ガンカク「そんなことより、あんたたちが買った理由を教えてくれないか? 最初は圧倒的に俺たちの方が勝っていたのに、2度目にはなんでアンタラが勝つことができたんだ?」

ミヤギのオバサン「あんた、図体がでかい割には他の2人よりも素直じゃないか、いいところに気がついたね。あんたこないだのオープントーナメントの時よりは一歩前進てわけだよ」

宮城「空手には、寸止めとフルコンタクトってあるだろ?」