死んだ人がどこへ行くのか? それは誰にもわかりません。
だって、死んでしまった人で、生きてこの世に戻った人なんて、聞いたことはありませんから。
なのに、わたしは死んだ人々のお話をしようとしています。
ですからこのお話はすべて空想夢世界での出来事なのです。
今回は、自殺してしまったある若い女性の話をしましょう。
(本文)
リエの双子の姉、タカコが22歳という若さで自殺してしまいました。
タカコのお母さんは継母で、自分が連れてきた娘とユミコと一緒にタカコをいじめていました。
しかし妹のリエには、姉のタカコがそれだけの理由で自殺したとは考えられませんでした。タカコはいつも明るく元気な女の子だったからです。
タカコは何も言わず、遺書さえ残さずに高層ビルの屋上から身を投げたのです。
だから他の人にはタカコが自殺した理由は全くわかりませんでした。
タカコの、納骨の日、お墓に来たのはリエと父親のヨシロウだけでした。
タカコのお墓ははとても広い霊園の中にありました。どこまでも続く緑色の美しい芝生の中に、真っ白いお墓がせい然とならんでいました。空は青く雲1つありません。
「リエ、タカコがいなくなって、お前これから先、あの家で、1人で大丈夫か?」
ヨシロウが心配そうに聞きました。
ヨシロウは、タカコたちの母親が死んでしまった後、ユミコの母親サエコと再婚したのでした。サエコはそれまでシングルマザーでした。
ヨシロウとサエコの結婚生活はうまくいかず、連れ子のユミコと、タカ子たちの関係も悲惨なものでした。ヨシロウは、タカコたちが高校生のときに家を出てしまったのです。肉親のタカコとリエを残したまま。
タカコたちに対するサエコとユミコのいじめはますますひどくなりました。タカコたちは、父親を恨みました。しかしどうすることもできませんでした。
ですから、リエが父親と再会したのは数年ぶり、しかも自分の娘タカコの納骨と言う最悪のタイミングでした。
リエは、腹が立ちました。
「私の心配するくらいなら、なんで私たちを置いて行ってしまったのよ? お父さんさえいてくれたらタカコだってこんなことには‥‥」
リエはいつも姉のタカコを呼び捨てにしていました。だって姉妹といっても同じ歳なのですから。
それから数年後、星の美しい夜、リエはあの高層ビルの屋上にいました。
タカ子が身を投げた屋上です。
リエは、自分もタカコの後を追うつもりでした。
この数年間、にいろいろなことがありました。
まず父親が死んでいました。
誰も知られず一人暮らしのアパートで、寂しく死んでいるところが見つけられたのです。
それからサエコとユミコのいじめはますますひどくなりました。
いじめといっても子供たちのそれとは違います。
リエは、結婚を約束した恋人トシキを妹のユミコに奪われてしまいました。
リエはトシキからそのことを聞かされることになりました。
その時にリエのおなかの中にはトシキの子供がいたのです。
リエは、その子を一人で生んで一人で育てるつもりでいました。それは両親もタカコも、血縁のすべてを失ってしまったユミにとって、唯一の肉親となるはずでした。
しかし、サエコもユミコもそれを許しませんでした。
トシキはユミコたちにとって大きな金づるでした。彼の両親は資産家であり、彼自身も有望な企業の正社員でしたから。
今風の言葉で言うと、「優良物件」だったからです。
なのに、リエが出産したら、トシキの気持ちがその子供を通して変わってしまうかも知れません。
ユミコたちはトシキをまたそそのかしました。自分を愛する証として、絶対にリエに気持ちが戻らない証拠として、
、ユミコにそそのかされたトシキよって階段から突き落とされ、子供を流産してしまったのです。
屋上の手すりにつかまって、これまでの出来事を思い出しながらリエは、屋上から下を眺めました。
リエには景色がよく見えませんでした。それはその屋上があまりに高いところにあったからでも、夜だったからでもありません。リエの瞳が涙で曇って何もかもがぼやけて見えたからです。
星の光も、街の明かりも、何もかもが混じり合ってとても美しく見えました。
「天国ってこんなに美しいところなのかな? お父さんもお母さんもそんなところにいるのかしら?」
見えなくなれば、高い場所はそんなに怖くなくなります。
リエが、手すりから身を乗り出そうとした時、涙でにじんだ美しい景色の中に、いきなり死んだはずの父親ヨシロウが現れたのです。
リエの涙の中のヨシロウは何も言わずじっとリエを見つめていました。
リエには、ヨシロウの表情はとっても深い悲しみをたたえてるように見えました。
「お父さん、天国に行ったんでしょ? なのになんでそんなに悲しそうなの?」
ヨシロウは何も答えません。ただじっとリエを見つめているだけでした。
その夜から、またしばらく長い時間が経過しました。
リエは生きていました。あの時飛び降りるのをやめたのです。
ヨシロウの悲しそうな顔が、リエの心を動かしたのです。
リエは生き続けました。たくさんの悲しみや苦しみの重荷を背負ったまま、
でも、苦しみと言うものは背負い続けていれば、だんだん軽く感じるものです。
それは本当に荷物が軽くなったのではなく、背負っているその人が強くなった証拠です
彼女は家を出て、一人暮らしを始めました。もう、トシキや継母やユミコと
関わることのない遠いところへ。
そして新しい仕事を見つけたのです。
やがて、新しい出会いがリエに訪れました。
結婚し、家を建て、子供たちが生まれたのです。
ある時、リエは家族を連れてお墓参りに行きました。どこまでも続く緑色の絨毯、整然と並んだ白い墓石、
あの姉のタカコを納骨した霊園です。そこには父親のヨシロウも眠っています。
リエは、自分の家族をタカコとヨシロウの墓石の前に並べて言いました。
「お姉さん見て、私の家族よ。私は自殺しそうになったけど、思いとどまったの。そしたらねお姉さん失ったものを全て取り返したわ。私だよ生きていてこんなに幸せがあるなんて思いもしなかったわ」
それは突然に起こった、リエの目の前でそれまであったすべてのものが消えてしまったのです。
彼女の夫も子供たちも、目の前のタカコや、ヨシロウの墓石も、いいえそれだけではありませんそこにあったすべての墓石も消えていました。
残っているのは、どこまでも続いている緑色の絨毯と、青い空だけでした。
リエ実は理解できませんでした。
「何? あなたどこいったの? 私の大事な子供たちは? みんな、みんなどこへ消えてしまったのよ? お願い私の家族を返して! どうしてこんなことが起こったの誰が私に教えてよ?」
すると声があった。
「よかったね、君はこれで天国に行けるようになったんだよ」
「タカコの自殺4」終わり
「タカコの自殺5」に続く0本
「天国ってこんなに美しいところなのかな? お父さんもお母さんもそんなところにいるのかしら?」
見えなくなれば、高い場所はそんなに怖くなくなります。
リエが、手すりから身を乗り出すようとした時、涙でにじんだ美しい景色の中に、いきなり死んだはずの父親ヨシロウが現れたのです。
リエの涙の中のヨシロウは何も言わずじっとリエを見つめているように思いました。
りえには、ヨシロウの表情はとっても深い悲しみをたたえていました。
「お父さん、天国に行ったはずなのになんでそんなに悲しそうなの?」
ヨシロウは何も答えません。ただじっとリエを見つめているだけでした。
またしばらく時間が経過しました。
リエは生きていました。あの時飛び降りるのをやめたのです。
たくさんの苦しみを背負っていたまま、リエは生き続けました。
でも、重荷と言うものは背負い続けていれば、だんだん軽く感じるものです。
それは本当に荷物が軽くなったのではなく、背負っているその人が強くなった証拠です。
彼女は家を出て、一人暮らしを始めました。もう継母やユミコと
関わることのない遠いところへ。
そして新しい仕事を見つけたのです。
やがて、新しい出会いがリエに訪れました。
結婚し、家を建て、子供たちが生まれたのです。
ある時、リエは家族を連れてお墓参りに行きました。どこまでも続くグリーンの絨毯、整然と並んだ白い墓石、
あの姉のタカコを納骨した霊園です。そこには父親のヨシロウも眠っていました。
家族でこのお墓に来るのは初めてのことでした。
リエは、生きることを選んで得られた幸せをタカコや、ヨシロウに報告したかったのです。
彼女は、夫と幼い男の子とそして生まれたばかりの女の子を胸に抱いて、こう言いました
「お父さん、たかこ見て、私の家族よ。あのとき、リ生きることを選んだおかげで、あの苦痛から逃れることができたわ。そしてささやかだけど、あな時には考えられなかった幸せを得たわ」
そのとき、それは突然起こったのです。
リエの目の前でそれまであったすべてのものが消えてしまったのでした。
彼女の夫も息子も、抱いていた赤ん坊さえ、リエの腕の中から煙のように消えてしまったのです。
それだけではありませんそこにあったすべての墓石も消えていました。
残っているのは、どこまでも続く青々とした絨毯と、青い空だけでした。
「タカコの自殺4」終わり
「タカコの自殺5」に続く0本