ジオン、ガンカク、テッキ、この3人は不思議な目的でつながっている。
その目的とは道場破りだった。
彼らは暴走族のようにバイクにまたがって、いたる所で道場を荒らしまわっていた。
時代劇の道場破りは
「先生に一手ご指南願いたい」
と最初に頭を下げる。
道場側は、下っ端の弟子から相手をさせる。先生に一手ご指南を受けるまでには、弟子数名そして師範代、師範とだんだん強い相手と戦わなければならない。段階があるのだ。
戦う人数が多いほど道場破りが途中で負けてしまう可能性が大きいし、勝ち残ったとしても相当疲れているはずである。
最後に戦う師範にはとても有利だ。
それでも、道場破りが師範を倒した時、道場破りはその道場の看板を奪っていくと脅す。
道場側は、看板を奪われては面目丸つぶれである。何とか金で解決しようとする。それが道場破りの商売なのである。
しかし、ジオンたちの道場破りはこんな古風なスタイルではなかった。
最初に彼らはターゲットになりそうな道場をいろんな方法で探す。
ネットでググったり、直接調べるのはもちろん、オープントーナメントや、公式の試合などに観客を装って偵察するのだ。
だからといって弱そうな道場をさがしたりはしない。あえて強い道場を探す。
オープントーナメントで優勝するような道場はよいカモなのだ。
実力がある選手を輩出するような道場は資金が潤沢だ。そしてプライドが高い。
道場破りに負けたって金を出し渋ったり警察に届けるようなヤボは絶対にしない。
負けたことを吹聴でもされたら、道場の面目は丸つぶれではないか。
ジオンたちの道場破りでの戦い方はと風変わりな方法だった。
彼らは道場に乗り込む衣装にもこだわりがあって、いつも暴走族スタイルか、派手なコスプレで、相手に乗り込む。奇抜なスタイルが道場破りにとても効果的なことを彼らは知っていた。
夜、ハロウィンの化け物ようないでたちで、いきなり道場やジムのドアを蹴破る勢いで突撃するのだ。
そして道場生たちがあっけにとられているうちに、大男のガンカクが化け物スタイルで
「おい、戦いに来てやったぜ。ここの師範は誰だ?」とか「こン中で1番強い奴は誰だ?」とたたみかける。決して下っ端から戦うようなことはしない。最初から上しか相手にしない。
ほとんどの道場や格闘技ジムの連中は、この段階でジオンたちに完全に気を飲まれてしまう。
そして、師範や一番強いヤツ? が出てきた瞬間、3人のうちの1人がいきなり飛びついて、ボコボコにノシてしまうのだ。
どんな戦いも、最初に大将を倒すのは常道だ。師範代や、リーダー格さえ倒してしまえば、残された道場生やボクサーたちは、完全に戦意を喪失してしまう。
3人のうちの1人といったが、最初に戦うのはたいていはテッキである。
テッキはテコンドーの有段者でムエタイのアマチュア選手だった。だが、ジオンやガンカクの実力にはまだまだ及ばない。
そうはいっても戦い方が荒っぽく、礼儀もルールも無視した突撃スタイルなのでたいてい彼1人で充分だった。
しかしときには本物の実力者もいるし、道場破りに慣れている手合いもいる。
そんな時はガンカクの出番である。
ガンカクはプロレスラーである。寝技や、ジュージュツが得意である。
空手やボクシングなどの立ち技主体の格闘技は、寝技に持ち込まれるとほとんどどうすることもできない。
と言うわけで道場破りのほとんどは、テッキとガンカクだけで終わってしまう。
そのように、最初に師範などの大物を倒しているので後は話が早い、カタキを取ろうなどと考える弟子なんていない。
すぐに金になった。
そりゃそうだろう。道場破りに負けたなんて評判を立てるわけにはいかないのだ。
今はネットの時代だ。写真でも撮られてしまったらあっという間に拡散して、商売にならなくなってしまうのだ。
ジオンたちは格闘家たちのそのような弱点をよく知っていた。
ではジオンの役割は何なのだろうか?
実は、最初にこの道場破りを提案したのはジオンだった。
「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半 終わり