ヘタレ師範4 「慈恩・岩鶴・鉄騎」後半

 ある時、闇サイトにこんなブログが載っていた。

格闘技経験者求む。、ただし、このブログの管理者と手合わせして実力を認められた者に限る」

そして管理者の名前は「慈恩」とあった。

 

そのサイトを見つけたガンカクは応募した。

ほんの好奇心からだった。

 

連絡するとジオンから街外れの公園に呼び出された。

 

 

ガンカクと対峙したのはジオンだった。

テッキのほうは化け物のようなガンカクを見た瞬間から腰が引けているのがよくわかった。

 

しかし、女の方は、自分より2倍以上大きな相手を前にしても、眉一つ動かさなかった。

 

ガンカクは、ジオンが若い女だと知って本当は戦いたくはなかった。

女は所詮男にはかなわないと言う先入観があったのだ。

それは、ガンカクの優しさと言うより、女に勝っても自慢にはならないし、もし負けでもしたら…。

 

一方ジオンは、これまで何人もの男達と戦ってきた。だからガンカクが、心の中で考えていることはすぐにわかった。

 

「怪物さんよー、心配しなさんな。あんたが負けたとしても誰にも言わないからさ」

ガンカクは思わず、ジオンの横に家来のように控えているテッキの方を見てしまった。

そしてしまった! と思った。

 

ジオンはふっと笑みを浮かべて

「大丈夫だよ、その男は何も言いやしないよ。」

ガンカクはまたしてもこの女に心の中を見透かされたのだ。

自分はまだ戦いもしていないのにこの女に飲み込まれてしまっていると思った。

 

女は続けた

「この男、テッキと言うんだけど」

ガンカク「テッキ? 日本人にしちゃヘンな名前だな、ゴロも良くねえ」

「テッキはオタクと同じさぁ、俺のサイトに応募して、オレと、ここでこうやって戦ってね。

 

テコンドーとムエタイが得意だとイキがってたが、一発だったぜ、蹴りのたった一発でオレの足元に這いつくばりやがったのさ。

テッキという名前は、その時にオレがつけてやったんだよ。

それ以来オレの後にくっついてるってわけだ。」

 

「(この女は戦って負けた男を自分の奴隷にしているのか? 俺も負けたらこの女の言いなりになるのか?)」

ガンカクの心の中にそんな思いが浮かんだが、それは一瞬のことだった。

 

しかしジオンは

「オレはテッキに子分になれとも言ったことなんかないし、テッキはおたくが負けたからっていいふらしたりたりする男じゃねーよ。そんな心配は全然ないんだよ」

 

確かにそうだろう。ガンカクが負けたとしても、テッキがそれを言い触らすなんて事は万が一にもありえない。だって、それはテッキ自身がこの女に負けたことを自ら吹聴するようなものだから。

 

女は自分を管理者のジオンだと名乗った。ガンカクはウェブサイトの管理人「慈恩」の文字を思い出した。

 

ガンカクは虚勢を取り戻して

「ジオン? そりゃどこの国の名前だ? あんた日本人?」

 

茶化したつもりだったが、女は無表情のまま

「オレは名乗ったぜ」

男のような言葉だった。女の顔の美しさにそれをより引き立てた。

ガンカク 「俺の名前はなぁ、あんたが俺に勝ったら教えてやるよ」

ジオン「名前なんて必要ないよ。どうせオタクはそこに這いつくばるだろうからね。そしたらその時には、オレが名前をつけてやるよ、ガンカクという立派な名前をな」

 

「ふざけるな!  俺はプロの格闘家だ。空手もやったことあるさ。女の腕じゃあ‥‥」

その言葉が全部終わらないうちにガンカクは2メートルも後に吹き飛ばされていた。女の前蹴りを喰らったのだ。空手の技の中では、基本的な蹴り技だ。

 

しかし、ガンカクにはまるでジオンの動きが見えなかった。それほど速い蹴りだった、ガンカク跳ね起きて

「何しやがる? 挨拶もなくいきなり」

またしてもガンカクは後ろに飛ばされた。また前蹴りだった。しかしガンカクは今度は起き上がることができなかった。

ジオンはニヤリと不気味な表情を見せて横で見ているテッキに

「さすがプロの格闘家じゃねーか。オレの蹴りを二発も喰らってまだじたばたしてるぜ。テッキの時は一発だったのによー」

 

2発の前蹴りは、それほどまで威力があった。こんな経験は初めてだった。

 

現役のプロレスラーのこの俺が、、、ガンカクは何とか体を立て直そうとしたがふらふらとよろめくだけだった。

女がこういった

「オレの親父が、教えてくれたんだよ『男と戦う時は手を抜くな、でないと命も純潔も失うことになる』ってな」

そして女の回し蹴りが猛烈なビンタにのようにガンカクの顔面に炸裂した。

ガンカクは意識を保っていることができなかった。

 

それ以降、ガンカクもジオンの子分のようになった。

 

ガンカクは実はジオンの子分になったことをどこか喜んでいるようなところがあった。

なんというか、大柄なガンカクが明らかに華奢なジオンに寄り添っているところは、まるでボディーガードか父親のように見えた。

 

彼らが道場破りを始めたのはその頃からだった。

 

しかし

ガンカクもテッキも道場破りが面白くて参加してはいたが、ジオンがなんでそんなに他の道場に押し掛けて道場破りに汗を流すのか、その理由はわからなかった。

 「慈恩・岩鶴・鉄騎」後半終わり

 

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