わかれ道「タカコⅠ」

 

 

 

 

タカコは若く、聡明でとても美しい女の子でした。あるクリスマスの夜、彼女は高層ビルの屋上から身を投げて命を絶ちました。

 

リエはタカコの双子の妹でした。リエとタカコはとても仲がよかったのに、

タカコがなぜ自殺したのか、リエにも他の人たちにもまったくわかりませんでした。

タカコは誰にも相談せず、遺書も残さなかったからです。

 

タカコたちの父親であるヨシロウはとても裕福でしたが、家庭の事情はとても複雑でした。タカコたちを生んだ母親は、2人が幼い時に交通事故で亡くなってなくなってしまったのです。

 

その後、父親のヨシロウはサエコというシングルマザーと再婚しました。

彼女はとても強欲で、結婚の目的はヨシロウの資産にありました。

 

サエコの連れ子のユミコは、

タカコよりも2歳年下でしたがとても可愛い顔立ちをしていました。でもその性格は母親のサエコに似て、我がままでとても意地悪でした。腹違いの姉であるタカコたちの洋服やアクセサリー学用品など気に入ったものをいつも自分のものにしていました。

 

そのことをサエコに告げても

「誰があんたたちにご飯食べさせてると思ってるのよ!」

サエコはいつも自分の娘の味方でした。

 

ヨシロウとサエコとの結婚生活もうまくいきませんでした。

ある時、ヨシロウは、家を出てしまいました。タカコたちを、サエコの家に残したまま。

 

当然、サエコたちのいじめはより激しくなりました。

タカコたちは食事や洗濯掃除などまるで使用人のように働かせられました。そうしなければ食事も与えてくれなかったのです。

 

そんな環境でしたが、もともと母親のぬくもりをほとんど知らなかったタカコはそんなことにはめげませんでした。

食事作りや掃除洗濯なんて、子供の時代からやってきたことなんです。

 

ですから、サエコやユミコのいじめくらいでタカコが自分の命を断ってしまうなんて、リエには到底考えられませんでした。

 

やがてタカコの納骨の日がやって来ました。

納骨とは死んでしまった人の骨を、お坊さん立ち会いの下にお墓に収める行事です。

 

納骨には親族が立ち会うものですが、その日にはリエとヨシロウしかいませんでした。

 

家を出たあと、タカコの葬式にも顔を出さなかったヨシロウは、どこからか聞きつけたのか、突然タカコのお墓に現れたのです。

 

そこはとても広い霊園でした。むこうの端が見えないくらい広く、緑色の芝生がどこまでも広がっています。その中に今風のとてもモダンな墓石が整然とどこまでも並んでいました。

 

リエはこの霊園はここにきたとき

「なんだか私、前にもここに来たことがあるような気がする」

そのお墓にはタカコだけでなく、タカ子たちを生んだ母親のお墓でもありましたが、それはタカ子たちが幼いときです。そのあとここに来たことはないはずでした。

「だけどわたしなんだか最近ここにきたような気がする」

しかし、リエにはそんなことをゆっくり思い出している心の余裕ははありませんでした。



納骨が終わってお坊さんたちが帰ってしまうと、シトシトと雨が落ちてきました。

 

リエたちは雨具も持っていませんでしたが、そこから離れることができませんでした。

何の理由も話さず死んでしまったタカコや、突然家出して突然現れたヨシロウにとても強い不信感があったからです。

 

しかしタカコはもういません。リエはモヤモヤする思いをヨシロウにぶつけました。

「今までどこへ行ってたのよ? お父さんさえいてくれたら、タカコはこんなことにはならなかったわのに」

ヨシロウは黙って下を向くだけで何も答えませんでした。

「どうして? お父さんはどうしてあの女と結婚したの? あの人を選んだのはお父さんでしょう? なのにどうして逃げ出してしまったのよ?」

うつむいていたヨシロウはそのまなざしをタカコに移しました。

「すまないな、情けない父親で。それよりお前1人で大丈夫かい?  あの家で?」

リエは、カッと、腹が立ちました。

「大丈夫なわけないでしょう。でも私は負けない。お父さんみたいに逃げ出したり、タカコのように、自殺なんて絶対しないわ。私絶対に負けるものですか」

リエは父親と、納骨したばかりのタカコの墓石に向かってそう叫びました。

 

第一話終わり

第二話へ続く

ヘタレ師範6「五郎」後編

セブン─イレブンのお届けサービス セブンミール

 

道場破りとの試合は悲惨な結果に終わった。

 

テッキにオバサン、ガンカクにミヤギ、ジオンにミヒが立ち会った。

どの勝負も、最初に少しだけもみ合ったが、すぐに道場破り組が、優勢になり、

3人をボコボコに叩きのめした。

 

テッキ「いくら道場破りったってジジババと、女と戦ったのは初めてだぜ」

ガンカク「年寄りと女相手だから、少しは手加減してやったんだ。ほかの道場相手ならこんなにやさしくないんだぜ」

ジオン「どうでもいいよ、そんなこたあ。おいそこのヘタレ師範さんよ、これであんたの弟子はみんなぶっ倒したんだ。こんどこそ相手をしてもらうぜ」

 

五郎の顔が青くなった。

「だ、だめですよ。ぼ、ぼくは戦いませんから」

オープントーナメントのときと同じような泣き言だった。

 

ジオン「なんだよ、テメエそれでも男かよ。弟子はあんな年寄りでもちゃんと戦ったんだ。あたしはね、感心してんだ。師範のお前を守るために、あんなに弱いなりに一生懸命戦ったってのに」

 

ミヒがふらりと立ち上がった。

「ちょっと、姉さん。誤解してるよ。あたしたち弱くなんかない。この道場でサンバガラスね」

岩鶴が笑い出す。

三羽烏だあ? ジジババに、韓国女が三羽烏? 笑わせんじゃねえや」

 

ミヒ「それに五郎ちゃんが戦わないのはね」

 

テッキ「怖いんだろ? まあどこの道場にもいるけどな、ふんぞり返っているけど、実力のともなわない師範てのはさ。ここの師範もその口か」

 

五郎「そ、そうです。ぼく実力全然ないんです。それに‥‥」

ガンカク「それに? それに何だよ?」

 

五郎「あの、ミヤギのオジサンもオバサンも、それにミヒだって、あなたがたにまだ負けてはいませんから」

ジオン「なんだと?」おまえ、また卑怯な言いわけを‥‥」

 

ジオンが五郎に喰ってかかると五郎はとたんに下を向いてしまった。気の弱い男だ。

「ボクは、自分の弟子が勝ったというし、あなたがたは自分たちの勝ちだというし‥‥」

 

テッキ「だったらもう一度やればいいだろうが、それでシロクロはっきりするじゃねえか」

 

「あのぼく、シロクロはどっちでもいいんです。どっちが勝手も負けても‥‥それが勝負だし」

 

これにはジオンたちはあっけに取られた。

 

すると、ミヒが真剣な顔をしてこう言った。

「ごめん、五郎ちゃん、ワタシ今度は本気で戦いたい」

五郎「‥‥え?」」

ミヒ「五郎ちゃんの言う通り、わたしもシロクロどうだっていい。強いも弱いも関係ない。でも、こんなシロウトさんたちに誤解されたままなのはいや!」

ジオンはオープントーナメントの会場で、ミヤギに「おまえたちのほうがよっぽどシロウトだよ」と言われたことを思い出した。

 

おずおずとミヤギのおじさんが立ち上がる。

「五郎ちゃん、俺からもお願いする。こいつらと普通に戦わしてくれよ。そしたらわかるんだから、それで納得すれば、こいつらだって、もう五郎ちゃんと戦おうとは言わないだろうし」

ジオン「もう五郎ちゃんとは戦うおうとは言わないって、さっきのシロウト発言といい、こいつら、俺たちが負ける前提で話してる」

 

ミヤギは続けた。

「この間、こいつらに俺と嫁さんも約束したんだ。なぜ五郎ちゃんが買ったかを説明してやるって、だから」

ミヒが

「そんなことより、ワタシこの人たちとまともに戦ってみたいよ。私たちは確かに全然負けてないけど、でもこの人たちは全然わからない。自分たちが勝った勝ったと自慢するんだから。それ私いやだ。五郎ちゃんあまりにもかわいそう」

 

それでも五郎は二度目の戦いを許可しようとしなかった。

すると宮城のおばさんが。

「私悪いけど、五郎ちゃんとの約束破るよ」

 

そう宣言するとオバサンは、ポカンとしているテッキの前に進み出た。

そして、今まで見せなかった般若のような表情になって

「おいちょんまげ頭?!」

テッキはびっくりした

「ちょんまげってって俺の事かよ?  なんでおばさん、おっかない顔して。なんだまたノサれたいのか?」

「かかってきな」

「婆、ふざけやがって」

テッキは言いなり、さっきと同じ上段回し蹴りを放った。さっきはそれでおばさんを倒したのだ。

しかし今度は倒されたのはテッキの方だった。

おばさんはただ普通に前屈に進んで順突き(おいづき)を普通に打ち込んだだけだった。

 

立った姿勢から前屈に進むと少し背が低くなる。

テッキの回し蹴りはおばさんの頭上を越えて行った。

おばさんの順突きは、テッキのみぞおちを狙ったものだったが、回転するテッキの脇腹に突き刺さった。

おばさんの順突きも、最初に戦った時と全く同じ技である。

しかし1つだけ違っていたのは、最初は寸止めだったが、2度目はフルコンタクトで打ち込んだだけだった。

テッキは脇腹を抑えてのたうち回った。

 

テッキは脇腹を抑えてのたうち回った。

「まぐれだ! 偶然じゃねえか!」

大声でガンカクが飛び出してきた。

 

最初の試合では、ガンカクはミヤギをタックルし、チョーク攻撃で気絶させたのである。

ミヤギ「やれやれ、やってみせないとわからないんだな。わかったよ相手をしてやるよ」

 

出てくる宮城をミヒが止めた。

「おじちゃん、今度私やるよ。いいから休んでな。おじちゃんもう年なんだからさぁ」

 

自分の前に立った小柄なミヒを見てガンカクはうんざりした。

「俺はなぁ、女と戦うのは嫌いなんだよ。でもまぁ女にもいろいろあるからなあ」

そう言ってガンカクはジオンを見た。かつてジオンと戦って遅れをとったことを思い出した。

ジオンは少し笑ったように見えた。そしてガンカクに戦うように促した。

ガンカクとミヒが向かい合った。

テッキ「まるで美女と野獣じゃねえか」

ガンカク「女だからって容赦しねぇぜ、俺がプロレスラーだってことを忘れんなよ」

「自慢は、勝ってからいいな」

「Wow!」

ガンカクはさっきと同じようにミヒにタックルを仕掛けて飛び込んできた。

ミヒはガンカクを避けようとせず、立った姿勢から前屈に進んだ。

ミヒのひざが、ガンカクの顔面にぶち当たった。

ぶち当たったと言うより、ミヒは前屈に普通に進んだだけである。それに対してガンカクは勢い良く飛び込んだので、ガンカクの受けた衝撃は非常に多かっただろう。

ガンカクは「ぎゃー?!」と叫んで顔面を両手で抑えた。その指の隙間から鼻血が滴り落ちてきた。

しかしガンカクは、立ち上がることができなかった。

 

一同は唖然とした。

特にジオンはあっけにとられていた。自分がガンカクを倒したとき、三回も攻撃してやっと倒したのだ。しかしこの韓国小娘は、たった一撃でガンカクを仕留めてしまったのだ。しかも対した攻撃技とも思えない、前屈立ちの膝だけで。

 

ジオンは今まで、こんな戦い方を見た事はなかった。

彼女は、認めるわけにはいかなかった。

 

ジオン「ざけんじゃねえ、こんな試合認めるわけにはいかないよー!」

そして自分は五郎に詰め寄り

「第一、てめえは1度も戦ってねーじゃねーか。戦え! この俺とサシで勝負しろ! そしたら認めてやるよ。オメエが師範だってことをよ。俺たちが負けたってことをよ」

 

五郎は下を向いたまま

「僕たちは、勝ち負けはあんまり興味ないんです。それに僕はあなたより強いか弱いかなんてどうでもいいんです」

とんでもない言葉である。ヘタレとは言え、1道場の師範が、勝ち負けにこだわらない、強さに興味がないと言い放ったのだ。

「だったらなんで道場なんてやってんだよ? 強さに興味がないんだったら、お前ら何のために練習したんだ?」

 

五郎は下を向いたまま、恥ずかしそうにこういった

「生きるためですけど‥」

これにはジオンもガンカクもテッキもポカンとなった。

テッキ「生きるって? 生活のためかよ?」

 

ガンカクが何とか立ち上がった。彼の表情はこれまでとは違っていた。

ガンカク「そんなことより、あんたたちが買った理由を教えてくれないか? 最初は圧倒的に俺たちの方が勝っていたのに、2度目にはなんでアンタラが勝つことができたんだ?」

ミヤギのオバサン「あんた、図体がでかい割には他の2人よりも素直じゃないか、いいところに気がついたね。あんたこないだのオープントーナメントの時よりは一歩前進てわけだよ」

宮城「空手には、寸止めとフルコンタクトってあるだろ?」



ヘタレ師範5「五郎」前篇

「バン!」

爆発したような音をたてて、道場の扉が開いた。

ガンカクが力任せに、両開きのクラシックドアを押し開いたのだ。

開け放されたドアから、ガンカク・ジオン・テッキが派手な衣装で乗り込んできた。

中で練習していた道場生達は一応に驚いてこの3人を見つめた。

これはいつもの道場破りの風景である。

 

ジオンたちの道場破りは、突飛なコスチュームで、ドアを蹴破るような勢いで、突撃して道場やジムの人間を威嚇する。

そうするこで心理的優位に立ち、相手がビビっているうちに勝負を決めるのを常としていた。

それだけではない。プロの格闘家たちを相手に道場破りなんてそんなにうまくいくわけがない。

そこでジオンたちは、戦う相手の道場や格闘技のルールを無視することにしていた。

寸止め道場には、フルコンタクト。顔面攻撃なしのルールは無視、立ち技が得意な相手には、レスラーのガンカクが寝技で攻める。

 それを相手が「反則だ!」「ルール違反だ?」と文句をつけられるまえに勝負を決めてしまうのだ。

 だから彼女たちの道場破りはこれまで百戦錬磨だし、おもしろいことに、ルール無視の道場破りで、負けて苦情を言う道場は1つもなかった。

 

 苦情なんか言えば、自分たちの道場が道場破り負けたことを宣伝するようなものだ。そうなれば道場生は来なくなり、経営は成り立たないだろう。

ジオンたちはこれまでの経験からそのことをよく知っていた。

 

今回はそうはいかなかった。

なぜならこの古ぼけた道場の道場生達は最初はびっくりしたものの、ほとんど全員が、すぐににっこりと微笑んだのだ。ドアをけ破った三人に。

ジオンたちが、「え?」ととまどっていると1人の女が進み出てきた。ジオンと同じ位の年齢だ

浴衣姿が可愛い。しかし、空手道場には全然似合わない。

浴衣はジオンたちの前に、すっと正座すると床に三つ指ついてこう言った。

「イラッシャイませ!」

コリヤなまりだった。

ジオンはオープントーナメントの会場を思い出した。あのとき、白帯を励ましていた女だ。韓国人なのか? しかしそんなことを考える間もなく

他の道場生たちまでが、「いらっしゃいませ」「どうぞよろしく」と口をそろえたのだ。みんな笑顔だった。

 

ジオンたちはこの「いらっしゃいませ!」の大歓迎に、自分たちが道場破りに来たのだと言うことを一瞬忘れてしまった。

今までどんな道場に押し掛けたって「いらっしゃいませ!」と歓迎された事は無い。

道場破りにかぎらず、例えば空手道場であるならば入るときのあいさつは「押忍(オス)」である。

道場によっては帰る時も朝の挨拶も「押忍」、何でも「押忍」で済むことさえある世界なのである。

 笑顔で「こんにちは」と迎え入れる道場なんてあるわけないのだ。

ジオンは頭にきた。

「ふざけるな! 何がいらっしゃいませだ、こんにちはだよ。ここは飲み屋? キャバクラ?    オレたちゃ、お客様じゃないんだよ。」

ジオンが最後まで言わないうちに三つ指の娘がすかさず言った。

「ドージョヤブリさんだよね? お待ちしておりました。さぁどうぞ」

と中に招いた。ガンカクとテッキは思わず顔を見合わせた。

こんな経験は初めてだった。ジオンは背中が少し寒くなった。

「ここは今までの空手道場とは違う、もしかしたら、ここの連中はとんでもない奴らばかりなのかも」

と、ジオンが警戒した瞬間。

いきなり後ろから。

「うわーっ!、道場破りですか? とうとうここまで来ちゃったんだ? それは困る、困りますよー」

ジオン「何だ!?」 

ジオンは驚いて、飛び退いた。その男の声があまりにも大きかったし、すぐそばなのに何の気配もなかったからだ。

ジオンたちは、その男を見た。

うつむいたままなので顔がよくわからない。

しかし、あの叫び声は聞いたことがある。

ジオンはもしやと思った。

すると道場にいた人々が一斉に

「先生!」「師範、おはようございます」

テッキ「師範おはようおはようございますって? もう夜じゃん」

ガンカク「ばか、どこの世界でも始まりの挨拶はおはようございますだ。この学生の世間知らずが」

ジオンは今度は落ち着いて、自分を驚かしたその男を見た。

Tシャツに、軽いパンツ姿である。どう見たって

ジオン「師範には見えないねえ、まるでデスノートの名探偵L(エル)ってとこか」

浴衣女が、例のコリア訛りでこういった

「シツレイなこと言わない。五郎ちゃんね、この道場の立派な師範なんだヨ」

テッキ「道場の師範に五郎ちゃんて?     先生にむかってちゃん付けかよ?」

「五郎?」

ジオンたちは思い出した。この間のオープントーナメントでのあの試合

 

いきなりジオンが大声で笑い出した。最初の警戒心がどこかへ吹き飛んだ。

ジオン「五郎って、お前が五郎さんかい?。あの試合で出るのを怖がって、挙句の果てに蹴飛ばされて気絶した、あのヘタレが空手師範って?」

顔を赤くしてうつむいている五郎。それを指差しガンカクもテッキも腹を抱えて笑いだした。

テッキ「『いやですだめです、怖いんです』って、泣きべそかいて、最後にゃタンカに担ぎ出されたゴロちゃんだろてめえ?」

声がした。

「ゲラゲラ笑っているのは、やっぱりお前ら、自分たちが素人だってことを証明してんだよ」

見ると、あの時のごま塩頭、ミヤギである。

ジオン「なんだまたテメェか?      いつも同じような登場してんじゃねえ。   オメエ達が偉そうなこと言うから来てやったってのに、ここの空手道場の先生があの時のヘタレだと知って、とっても感動してるとこだよ」

テッキ「どうやら教えてもらう価値なんかなさそうだ、こんな師範の弟子だったのか?おじさんはよー」

ガンカク「帰りましょう、ジオ姉。こんな連中やっつけたって何の自慢にもならないし時間の無駄だ。」

その途端、五郎の顔がパッと輝いた。

「そうですか、お帰りになりますか。ではまたいつか」

いそいそと3人を外に案内しようとした。しかし例の韓国人のミヒが3人の前に立ちふさがっていった

ミヒ「あら、せっかくドジョウヤブリ来たのに、尻尾巻いて帰るの?   あんたたち、せっかくイラッシャイマセしたのに、ここの道場のカンバンいらない?」

 五郎は慌てた

「いいじゃない、せっかく帰るといってるんだし、道場破りは別の機会に…」

しかしミヤギのおじさんまでが、

「せっかく人が役に立つことを教えてやろうとしてんのに、もったいないなぁ。オメエら、早とちりもいいとこなんだから」

五郎「いやいや、誰も早とちりなんかしてません。それに他の皆さんの練習もあることだし……」

そこへミヤギのオバサンが出てきた

オバサン「帰りたかったら.とっとと帰んな。だけど私は、こう見えてもSNSが得意なんだ。今夜さっそく書き込んでおくからね。『噂の道場破り逃げ帰る』ってさ」

このおばさんのSNS宣言は、帰ろうとしていた3人に火をつけた。

ジオン「なんて言ったのオバサン? オレたちが逃げ帰るだと?」

睨み合うジオンたち、睨み返すミヒとミヤギ夫婦。

五郎は睨み合う6人の間をうろうろしながら

「だから駄目だって言ったじゃないですか。僕は嫌いなんです。道場破りなんて」

「邪魔だ、ヘタレはどいてろ!」

しかしガンカクにあっという間に蹴飛ばされてしまった。

ガンカク「さあ今から道場破りの始まりだ。関係ないやつは怪我しないうちに出ていくんだな。今日の練習はおしまいだ」

すかさずテッキが続けた

「おしまいなのは今夜だけじゃないかもなぁ。ことによっちゃあこの道場、永久におしまいかもな」

五郎の道場1終わり、五郎の道場2に続く。

 

タカコのわかれ道  これは消去予定

死んだ人がどこへ行くのか? それは誰にもわかりません。

だって、死んでしまった人で、生きてこの世に戻った人なんて、聞いたことはありませんから。

なのに、わたしは死んだ人々のお話をしようとしています。

ですからこのお話はすべて空想夢世界での出来事なのです。

 

今回は、自殺してしまったある若い女性の話をしましょう。

 

(本文)

 

リエの双子の姉、タカコが22歳という若さで自殺してしまいました。


タカコのお母さんは継母で、自分が連れてきた娘とユミコと一緒にタカコをいじめていました。

 

しかし妹のリエには、姉のタカコがそれだけの理由で自殺したとは考えられませんでした。タカコはいつも明るく元気な女の子だったからです。

 

タカコは何も言わず、遺書さえ残さずに高層ビルの屋上から身を投げたのです。

だから他の人にはタカコが自殺した理由は全くわかりませんでした。

 

タカコの、納骨の日、お墓に来たのはリエと父親のヨシロウだけでした。

タカコのお墓ははとても広い霊園の中にありました。どこまでも続く緑色の美しい芝生の中に、真っ白いお墓がせい然とならんでいました。空は青く雲1つありません。


「リエ、タカコがいなくなって、お前これから先、あの家で、1人で大丈夫か?」

ヨシロウが心配そうに聞きました。

ヨシロウは、タカコたちの母親が死んでしまった後、ユミコの母親サエコと再婚したのでした。サエコはそれまでシングルマザーでした。

 

ヨシロウとサエコの結婚生活はうまくいかず、連れ子のユミコと、タカ子たちの関係も悲惨なものでした。ヨシロウは、タカコたちが高校生のときに家を出てしまったのです。肉親のタカコとリエを残したまま。

 

タカコたちに対するサエコとユミコのいじめはますますひどくなりました。タカコたちは、父親を恨みました。しかしどうすることもできませんでした。

 

ですから、リエが父親と再会したのは数年ぶり、しかも自分の娘タカコの納骨と言う最悪のタイミングでした。

リエは、腹が立ちました。

「私の心配するくらいなら、なんで私たちを置いて行ってしまったのよ?  お父さんさえいてくれたらタカコだってこんなことには‥‥」

リエはいつも姉のタカコを呼び捨てにしていました。だって姉妹といっても同じ歳なのですから。

 

それから数年後、星の美しい夜、リエはあの高層ビルの屋上にいました。

 タカ子が身を投げた屋上です。

リエは、自分もタカコの後を追うつもりでした。

 

この数年間、にいろいろなことがありました。

 

まず父親が死んでいました。

誰も知られず一人暮らしのアパートで、寂しく死んでいるところが見つけられたのです。

それからサエコとユミコのいじめはますますひどくなりました。

 

いじめといっても子供たちのそれとは違います。

リエは、結婚を約束した恋人トシキを妹のユミコに奪われてしまいました。

 

リエはトシキからそのことを聞かされることになりました。

その時にリエのおなかの中にはトシキの子供がいたのです。

 

リエは、その子を一人で生んで一人で育てるつもりでいました。それは両親もタカコも、血縁のすべてを失ってしまったユミにとって、唯一の肉親となるはずでした。

しかし、サエコもユミコもそれを許しませんでした。

トシキはユミコたちにとって大きな金づるでした。彼の両親は資産家であり、彼自身も有望な企業の正社員でしたから。

今風の言葉で言うと、「優良物件」だったからです。

なのに、リエが出産したら、トシキの気持ちがその子供を通して変わってしまうかも知れません。

ユミコたちはトシキをまたそそのかしました。自分を愛する証として、絶対にリエに気持ちが戻らない証拠として、

 

、ユミコにそそのかされたトシキよって階段から突き落とされ、子供を流産してしまったのです。

 

屋上の手すりにつかまって、これまでの出来事を思い出しながらリエは、屋上から下を眺めました。

 

リエには景色がよく見えませんでした。それはその屋上があまりに高いところにあったからでも、夜だったからでもありません。リエの瞳が涙で曇って何もかもがぼやけて見えたからです。

星の光も、街の明かりも、何もかもが混じり合ってとても美しく見えました。

「天国ってこんなに美しいところなのかな?  お父さんもお母さんもそんなところにいるのかしら?」

見えなくなれば、高い場所はそんなに怖くなくなります。

 

リエが、手すりから身を乗り出そうとした時、涙でにじんだ美しい景色の中に、いきなり死んだはずの父親ヨシロウが現れたのです。

リエの涙の中のヨシロウは何も言わずじっとリエを見つめていました。

リエには、ヨシロウの表情はとっても深い悲しみをたたえてるように見えました。

「お父さん、天国に行ったんでしょ? なのになんでそんなに悲しそうなの?」

ヨシロウは何も答えません。ただじっとリエを見つめているだけでした。

 

その夜から、またしばらく長い時間が経過しました。

 

リエは生きていました。あの時飛び降りるのをやめたのです。

ヨシロウの悲しそうな顔が、リエの心を動かしたのです。

 

リエは生き続けました。たくさんの悲しみや苦しみの重荷を背負ったまま、



でも、苦しみと言うものは背負い続けていれば、だんだん軽く感じるものです。

 

それは本当に荷物が軽くなったのではなく、背負っているその人が強くなった証拠です

 

彼女は家を出て、一人暮らしを始めました。もう、トシキや継母やユミコと

関わることのない遠いところへ。

 

そして新しい仕事を見つけたのです。

 

やがて、新しい出会いがリエに訪れました。

結婚し、家を建て、子供たちが生まれたのです。

 

ある時、リエは家族を連れてお墓参りに行きました。どこまでも続く緑色の絨毯、整然と並んだ白い墓石、

あの姉のタカコを納骨した霊園です。そこには父親のヨシロウも眠っています。

 

リエは、自分の家族をタカコとヨシロウの墓石の前に並べて言いました。

「お姉さん見て、私の家族よ。私は自殺しそうになったけど、思いとどまったの。そしたらねお姉さん失ったものを全て取り返したわ。私だよ生きていてこんなに幸せがあるなんて思いもしなかったわ」

それは突然に起こった、リエの目の前でそれまであったすべてのものが消えてしまったのです。

彼女の夫も子供たちも、目の前のタカコや、ヨシロウの墓石も、いいえそれだけではありませんそこにあったすべての墓石も消えていました。

残っているのは、どこまでも続いている緑色の絨毯と、青い空だけでした。

リエ実は理解できませんでした。

「何? あなたどこいったの? 私の大事な子供たちは? みんな、みんなどこへ消えてしまったのよ? お願い私の家族を返して! どうしてこんなことが起こったの誰が私に教えてよ?」

 

すると声があった。

 

「よかったね、君はこれで天国に行けるようになったんだよ」

「タカコの自殺4」終わり

 

「タカコの自殺5」に続く0本




「天国ってこんなに美しいところなのかな? お父さんもお母さんもそんなところにいるのかしら?」

見えなくなれば、高い場所はそんなに怖くなくなります。

リエが、手すりから身を乗り出すようとした時、涙でにじんだ美しい景色の中に、いきなり死んだはずの父親ヨシロウが現れたのです。

リエの涙の中のヨシロウは何も言わずじっとリエを見つめているように思いました。

りえには、ヨシロウの表情はとっても深い悲しみをたたえていました。

「お父さん、天国に行ったはずなのになんでそんなに悲しそうなの?」

ヨシロウは何も答えません。ただじっとリエを見つめているだけでした。

 

またしばらく時間が経過しました。

 

リエは生きていました。あの時飛び降りるのをやめたのです。

 

たくさんの苦しみを背負っていたまま、リエは生き続けました。



でも、重荷と言うものは背負い続けていれば、だんだん軽く感じるものです。

 

それは本当に荷物が軽くなったのではなく、背負っているその人が強くなった証拠です。

 

彼女は家を出て、一人暮らしを始めました。もう継母やユミコと

関わることのない遠いところへ。

 

そして新しい仕事を見つけたのです。

 

やがて、新しい出会いがリエに訪れました。

結婚し、家を建て、子供たちが生まれたのです。

 

ある時、リエは家族を連れてお墓参りに行きました。どこまでも続くグリーンの絨毯、整然と並んだ白い墓石、

あの姉のタカコを納骨した霊園です。そこには父親のヨシロウも眠っていました。

 

家族でこのお墓に来るのは初めてのことでした。

リエは、生きることを選んで得られた幸せをタカコや、ヨシロウに報告したかったのです。

彼女は、夫と幼い男の子とそして生まれたばかりの女の子を胸に抱いて、こう言いました

「お父さん、たかこ見て、私の家族よ。あのとき、リ生きることを選んだおかげで、あの苦痛から逃れることができたわ。そしてささやかだけど、あな時には考えられなかった幸せを得たわ」

 

そのとき、それは突然起こったのです。

 

リエの目の前でそれまであったすべてのものが消えてしまったのでした。

彼女の夫も息子も、抱いていた赤ん坊さえ、リエの腕の中から煙のように消えてしまったのです。

それだけではありませんそこにあったすべての墓石も消えていました。

残っているのは、どこまでも続く青々とした絨毯と、青い空だけでした。




「タカコの自殺4」終わり

 

「タカコの自殺5」に続く0本





ヘタレ師範1「オープントーナメント」前半

 

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イヤだあ! ダメ、ダメ、ダメだって。 出ませんよ、絶対出ませんから!」

あまりに大きな悲鳴だった。しかも若い男の。 

そこは、男の悲鳴にはあまりのも似合わない場所だった。だって、総合格闘技のオープントーナメント会場だったのだから。

 

満員の観客は、驚いて悲鳴の主を探した。

 

選手入場口に、白い空手着にグローブをつけた若者が、数人のスタッフに囲まれて入場してきた。というより引っぱり出されてきた。その男の悲鳴だった。

まるで、

泣き叫んであばれる子供を、母親や看護婦たちが無理やり引きずっていく。

その先には、注射器を持った医者が待ち構えている。そんな風景だった。

 

「約束が違うじゃないですか、だめですよ、ボクは怖いんですったら」

どうやら、選手の一人が出場を嫌がっているようだ。

 白い空手着の男を引っ張っているスタッフの中に若い女がいた。

「しょうがないヨ。出る人が来なかった。だから、五郎ちゃんが出るしかなヨ」 

女の声は集音マイクで観客に丸聞こえだ。

強いコリヤなまりだった。しかし、その一言で白い空手着は抵抗するのを止めて、ハーッとあきらめたようなため息をついた。 

 

「何だあのヘタレ?」

「ゴロウちゃんって? ここはコンサート会場かよ?」

観客席に不思議な3人組がいた。

1人は、赤髪のツーブロックヤンキー、学生風の筋肉質の男で通称テッキ。 

もう一人はマスクにサングラスの中年大男で表情はまったくわからない。バラバラの髪を肩まで伸ばして、怪物ぜんとしている。ガンカク。

 そのテッキとガンカクにまるでガードされているかように座っているのは、金髪で唇の真っ赤な女だった。羽織っているコートは、その唇のように真っ赤に染められていた。ヤンキー女はジオン。

この3人の姿はあまりに異様で、会場が満員だったにもかかわらず3人の周りだけは観客が遠巻きにしていた。

 

テッキが会場を見ながら

「あれで出場選手かよ? 情けねえ」

ガンカク「なんであんなビビリがこんなとこ来てんだ?    素人さんはお呼びじゃないだろうに」 

ジオン「そういうなって、ここは、素人歓迎のオープントーナメント会場なんだよ。あんなのでも出場権ってのがあるんだろう」

テッキ「ここは、くじ引きで当選すれば出場できるんですよ」

ガンカク「実力ないクセに口だけは達者な空手オタクが張り切って出てきたんじゃないですかね」

ジオン「出てきたはいいけど周りの、周りの雰囲気にビビっちまったんだろうよ。まぁあのヘタレにはいいクスリになったんじゃないのかい?」

「そんなところでしょうね」

テッキやガンカクが下手に答えているところを見ると、ジオンと言う女はリーダー格なのだろう。

テッキが試合会場を指さして。

「あのヘタレ野郎、どうやらヤル気になったみたいじゃん」

 確かにあの白い空手着が、青い空手着の黒帯の選手と対峙していた。白い空手着は、帯まで白い。 

ガンカク「白帯かよ、怖がるわけだ。あのヘタレの所属道場たいしたことないんだろうな。あんな入門したての新人みたいな選手出すくらいじゃ」

 

審判の「はじめ!」の合図で試合が始まった。 

青い空手着は、目つきも鋭く自信に満ちていた。それに比べて白空手着は、腰が引けオドオドしていて、まともに相手の顔を見ることさえできない。

 

青い空手着は両手のグローブをグッと構え、白い空手着を睨みつけた。白い空手着(以下白)は、ぼーっと立ったままだ。棒立ちで、グローブもだらんと下がっている。ありえない。スキだらけだ。

 

 「キェーッ!」

青い空手着(以下青)が、裂帛の気合で飛びこんできた。白が逃げ腰でタタッと下がった。青が追い詰める。白が止まった瞬間青がパパッと連続突きを放った。白は防戦一方に見えた。しかし、青は一瞬攻撃を止めた。

青が攻撃を止めたとき、白は棒立ちではなく、前屈で立っていた。

しかし、それは一瞬のことで白はふたたび棒立ちに戻った。

 テッキが大声で

ヤレー!  なんで手止めてんだよ?  そんなヘタレ殺しちまえ!」

確かに青の方が完全に優勢なのに一瞬攻撃を止め、にらみ合っている。

でも格闘技の試合においては間合いを図ったり、相手の呼吸を読んだり、そんな事はよくあることだ。

 

再び青がグローブを構えた。

白はさっきと同じ全く棒立ちである。 

「オース!」

気合とともに青の右足が白の顔面に回し蹴りを喰らわせた。速い。

「グェ!」

つぶれたカエルのような声だった。

白は青の攻撃を交わしきれず、顔面に回し蹴りをまともに受け、倒れ込んでしまった。

審判が青の勝利を告げた。白は立ち上がれなかった。どうやら気を失っているようだ。

 

テッキ「あアあ、いわんこっちゃねーよ、情けないったらないぜ」


さっきのスタッフたちが倒れた白に駆け寄った。

白はタンカで場外に運び出されるようだ。

「ダイジョブ。よくやった」

それは先程の女性スタッフのコリヤ風の声だった。おそらく同じ道場の仲間なのだろう。

 

テッキはふっと鼻で笑い。女の声色を真似た。

「ダイジョブ、よくやったわ?って、逃げまくったあげく蹴飛ばされてノックアウトされただけじゃないか?」

 ガンカク「誰でも出場大歓迎のオープントーナメントったって、あんな素人じゃあな‥」 

 

ガンカクの言葉をさえぎって後ろから声がした。

 声「ほんまモンのシロウトは、お前たちの方だよ」

 

オープントーナメント1終わり

 

「オープントーナメント2」に続く

ヘタレ師範2「オープントーナメント」後半

 

「だいじょうぶ、よくやったわ?って、逃げまくったあげく蹴飛ばされただけじゃないか?」

 

ガンカク「どなたでも出場大歓迎のオープントーナメントったって、あんな素人じゃあな‥」 

 

ガンカクの言葉をさえぎって後ろから声がした。

 

「ほんまモンのシロウトは、お前たちの方だよ」

ガンカク「なんだと?」

3人が振り返ると、すぐ後ろの席に中年の男女が座っていた。

 

1人は短髪でゴマ塩頭の男ミヤギ。もう1人は男の連れ合いで、けばけばしくパーマをかけた厚化粧の女ミヤギの妻、通称オバサン。

 ガンカク「誰かと思ったら、くたびれたジーサンバーサンかよ、何か文句あンのか?」

ジオン「おっちゃん、いい度胸だね。みんな俺たちを怖がって、見ろよ超満員なのにこの辺だけがら空きだ。おっさんたち俺たちが怖くねえのかよ?」

 オバサンが黙ったままじっとジオンの顔を見つめた。

ジオン「何だよ? 何ガン飛ばしてんだよ?」

 オバサン「あんた、まだあんまり男知らないだろ?」

 ジオンは顔色を変えた。

 「何だと? おとなしくしてりゃエラそうなこといってんじゃねえよ。お前らジジババに俺たちの何が分かるってんだ‥?」

怒鳴りながら、ジオンは心の中でまったく別のことを考えていた。

 「(こいつら何だ? 初対面なのに、オレの男関係なんて‥なんでそんなことを? それにオレたちがシロウトって何なんだ? いやそれよりこいつら何でおれたちを怖がらないんだ?)」

 オバサンは、ジオンの心の中を見ているかのように、

 「私はね、あんたと違ってたくさんの男を知ってるし、ヤクザに囲われていたことだってあるんだ」

 とたんに横のミヤギが飲みかけのジュースを吹き出した。

 オバサン「何だよキタナいねえ。とにかく、このジイサンバーサンはね、男も女もいろいろ見てるんだ。

赤い唇のお姉さんよ、あんたがいくら髪をキンキラにして、ハデハデメイクやその赤いおべべでいくら隠してたって、アンタのそのきれいな目ん玉にはさ、ツッパリコスチューム。全然似合ってないんだよ」

 そう言いながらオバサンはミヤギの方を見た。ゴマ塩がニヤリと笑う。

「囲ったヤクザってのは、誰のことだよ?」

ガンカクが

「そんな事はどうでもいい、だがこれ以上ジオ姉(ジオネエ)にいちゃもんつけるとこの俺が黙っちゃいないからな」

 

テッキ「そりゃ確かにジオ姉の男関係ってのは気にはなりけどさ」

とたんにガンカクがテッキの頭を平手ではたいた。

テッキ「アイテ、俺はこのジジババが俺たちをトーシロ呼ばわりしたことが気に食わねえだけだよ」

 そしてミヤギの方に

「そこんとこをよ、わかりやすく説明してもらおうじゃねーか。    俺はなぁこう見えてもテコンドーの段モチだ。ムエタイもやった。でもって、そっちのでかいガンカクさんはな」

 

「ローカルとは言えプロレスラーなんだ。リングの上では、ヒールだから負け試合もあるけど、ストリートじゃなぁ、1度だって負けたことがないんだ。このジオ姉以外にはな」

ジオンがテッキを止めた

「やめろ、俺たちのプロフィールはどうだっていい。だけど」

そしてミヤギ夫婦に向き直って

「俺たちを素人扱いしたワケはきちんと教えてもらおうじゃないか」

 

オバサン「アンタらが、格闘技のプロで、とりわけ空手が好きらしいってのはよくわかったよ」

ミヤギが文句を言った。

「ちょっと待てよ?    こいつらプロレスとかテコンドーの話はしてたけど空手の事なんか一言もなかったぜ」

「だからあんたはダメなんだよ。これまで何を教わってきたのさ?」

 オバサンは三人を指さしながら「この怪物がガンカク、横の突っ張りがテッキだろ? で、その真ん中のお姉ちゃんがジオン。あんただって3年も空手を習ったんだ。まだピンとこないのかい?」

ミヤギ、はっと自分の額を叩いた。

「あっそうか、形の名前かあ、空手の形の。岩に鶴で、岩鶴。鉄に馬で、鉄騎、そして慈悲の、慈に、恩人の恩で慈恩か、はは確かにそうだ」

 

岩鶴・慈恩・鉄騎は空手の世界ではよく名の知れた形の名前である。もっとも鉄騎というのは一般的には「ナイファンチ」と呼ばれている。

 

「いい加減にしろい!」

三人がそう怒鳴りつけた。

ジオン「ごちゃごちゃぬかしてねえでさっさと俺たちを素人扱いしたわけを言え!」

 

かなりの大声で遠巻きの観客たちさえびっくりするほどだったが、ミヤギとオバサンは一向に気に留めず。

オバサン「それは難しいねぇ」

テッキ「なんだと?    俺たちをコケにしておきながらこのままで済むと思ってんのか?」

 

ミヤギ「おめえら、あの試合で青い空手着が勝ったと思ってるんだろ」?

ジオン「そうじゃないってのか?」

オバサンは無視して続けた。

 オバサン「あの試合で、白いほうが、棒立ちだったのは、ビビってるからだと?」

 ガンカク「にきまってるだろうが、あんな突っ立って戦えるかよ?」

 ミヤギ「青が白を責めたとき、一瞬止まったことがあったろう。あれは?」

 テッキ「あれは? って何もったいぶってんだよ。あんなの試合じゃよくあることだろうが」

 ミヤギ「ふんそうかい?」とオバサンと顔を見合わせてニヤリとした。

 ガンカク「何二人だけで納得してんだ? 早いとこ白状しねえと、それこそ泣きをみることになるぞ」

 オバサン「やっぱりあんたらは、シロウトだよ。この程度のことも見抜けないんだから」

 

ジオン「だったら早く説明しろよ。年寄りが、イライラさせやがって」

ミヤギ「説明、説明って、そんな大事なこと、こんな大勢の前で、しかもこんなとこに座ったまま説明できっかよ。

それとも何か?    お前さんたちの自慢のテコンドーとかプロレス技は、椅子に座ったまま教えてもらってきたのか?    

もし俺たちにシロウト扱いされたのがそんなにくやしいのなら、その理由を知りたいんだったら、俺たちの道場へ来な」

 オバサン「そしたらさぁ、五郎ちゃん流の空手をさあ、手取り足取り教えてあげるからよ」

 

 五郎ちゃん? ジオンは思い出した

「(そういえばさっき、あの回し蹴りで気絶してタンカでかつぎ出されたあの男、確か五郎ちゃんて呼ばれていなかったっけ?)」 

オープントーナメント2終わり

 

 ヘタレ師範3「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半 に続く

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へつづく

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ヘタレ師範3 「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半

 ジオン、ガンカク、テッキ、この3人は不思議な目的でつながっている。

その目的とは道場破りだった。

彼らは暴走族のようにバイクにまたがって、いたる所で道場を荒らしまわっていた。

 

時代劇の道場破りは

「先生に一手ご指南願いたい」

と最初に頭を下げる。

 道場側は、下っ端の弟子から相手をさせる。先生に一手ご指南を受けるまでには、弟子数名そして師範代、師範とだんだん強い相手と戦わなければならない。段階があるのだ。

 戦う人数が多いほど道場破りが途中で負けてしまう可能性が大きいし、勝ち残ったとしても相当疲れているはずである。

最後に戦う師範にはとても有利だ。

 それでも、道場破りが師範を倒した時、道場破りはその道場の看板を奪っていくと脅す。

 道場側は、看板を奪われては面目丸つぶれである。何とか金で解決しようとする。それが道場破りの商売なのである。

 

 しかし、ジオンたちの道場破りはこんな古風なスタイルではなかった。

 最初に彼らはターゲットになりそうな道場をいろんな方法で探す。

ネットでググったり、直接調べるのはもちろん、オープントーナメントや、公式の試合などに観客を装って偵察するのだ。

だからといって弱そうな道場をさがしたりはしない。あえて強い道場を探す。

 オープントーナメントで優勝するような道場はよいカモなのだ。

実力がある選手を輩出するような道場は資金が潤沢だ。そしてプライドが高い。

道場破りに負けたって金を出し渋ったり警察に届けるようなヤボは絶対にしない。

負けたことを吹聴でもされたら、道場の面目は丸つぶれではないか。

 

 

 ジオンたちの道場破りでの戦い方はと風変わりな方法だった。

彼らは道場に乗り込む衣装にもこだわりがあって、いつも暴走族スタイルか、派手なコスプレで、相手に乗り込む。奇抜なスタイルが道場破りにとても効果的なことを彼らは知っていた。

 夜、ハロウィンの化け物ようないでたちで、いきなり道場やジムのドアを蹴破る勢いで突撃するのだ。

そして道場生たちがあっけにとられているうちに、大男のガンカクが化け物スタイルで

「おい、戦いに来てやったぜ。ここの師範は誰だ?」とか「こン中で1番強い奴は誰だ?」とたたみかける。決して下っ端から戦うようなことはしない。最初から上しか相手にしない。

 ほとんどの道場や格闘技ジムの連中は、この段階でジオンたちに完全に気を飲まれてしまう。

 そして、師範や一番強いヤツ? が出てきた瞬間、3人のうちの1人がいきなり飛びついて、ボコボコにノシてしまうのだ。

 

どんな戦いも、最初に大将を倒すのは常道だ。師範代や、リーダー格さえ倒してしまえば、残された道場生やボクサーたちは、完全に戦意を喪失してしまう。

 

3人のうちの1人といったが、最初に戦うのはたいていはテッキである。

 テッキはテコンドーの有段者でムエタイのアマチュア選手だった。だが、ジオンやガンカクの実力にはまだまだ及ばない。

 そうはいっても戦い方が荒っぽく、礼儀もルールも無視した突撃スタイルなのでたいてい彼1人で充分だった。

 しかしときには本物の実力者もいるし、道場破りに慣れている手合いもいる。

 そんな時はガンカクの出番である。

 

ガンカクはプロレスラーである。寝技や、ジュージュツが得意である。

 空手やボクシングなどの立ち技主体の格闘技は、寝技に持ち込まれるとほとんどどうすることもできない。

 と言うわけで道場破りのほとんどは、テッキとガンカクだけで終わってしまう。

 

そのように、最初に師範などの大物を倒しているので後は話が早い、カタキを取ろうなどと考える弟子なんていない。

すぐに金になった。

 

そりゃそうだろう。道場破りに負けたなんて評判を立てるわけにはいかないのだ。

今はネットの時代だ。写真でも撮られてしまったらあっという間に拡散して、商売にならなくなってしまうのだ。

ジオンたちは格闘家たちのそのような弱点をよく知っていた。

 

ではジオンの役割は何なのだろうか?

実は、最初にこの道場破りを提案したのはジオンだった。

 「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半 終わり

 

 

ヘタレ師範4「慈恩・岩鶴・鉄騎」後半につづく

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