タカコのわかれ道  これは消去予定

死んだ人がどこへ行くのか? それは誰にもわかりません。

だって、死んでしまった人で、生きてこの世に戻った人なんて、聞いたことはありませんから。

なのに、わたしは死んだ人々のお話をしようとしています。

ですからこのお話はすべて空想夢世界での出来事なのです。

 

今回は、自殺してしまったある若い女性の話をしましょう。

 

(本文)

 

リエの双子の姉、タカコが22歳という若さで自殺してしまいました。


タカコのお母さんは継母で、自分が連れてきた娘とユミコと一緒にタカコをいじめていました。

 

しかし妹のリエには、姉のタカコがそれだけの理由で自殺したとは考えられませんでした。タカコはいつも明るく元気な女の子だったからです。

 

タカコは何も言わず、遺書さえ残さずに高層ビルの屋上から身を投げたのです。

だから他の人にはタカコが自殺した理由は全くわかりませんでした。

 

タカコの、納骨の日、お墓に来たのはリエと父親のヨシロウだけでした。

タカコのお墓ははとても広い霊園の中にありました。どこまでも続く緑色の美しい芝生の中に、真っ白いお墓がせい然とならんでいました。空は青く雲1つありません。


「リエ、タカコがいなくなって、お前これから先、あの家で、1人で大丈夫か?」

ヨシロウが心配そうに聞きました。

ヨシロウは、タカコたちの母親が死んでしまった後、ユミコの母親サエコと再婚したのでした。サエコはそれまでシングルマザーでした。

 

ヨシロウとサエコの結婚生活はうまくいかず、連れ子のユミコと、タカ子たちの関係も悲惨なものでした。ヨシロウは、タカコたちが高校生のときに家を出てしまったのです。肉親のタカコとリエを残したまま。

 

タカコたちに対するサエコとユミコのいじめはますますひどくなりました。タカコたちは、父親を恨みました。しかしどうすることもできませんでした。

 

ですから、リエが父親と再会したのは数年ぶり、しかも自分の娘タカコの納骨と言う最悪のタイミングでした。

リエは、腹が立ちました。

「私の心配するくらいなら、なんで私たちを置いて行ってしまったのよ?  お父さんさえいてくれたらタカコだってこんなことには‥‥」

リエはいつも姉のタカコを呼び捨てにしていました。だって姉妹といっても同じ歳なのですから。

 

それから数年後、星の美しい夜、リエはあの高層ビルの屋上にいました。

 タカ子が身を投げた屋上です。

リエは、自分もタカコの後を追うつもりでした。

 

この数年間、にいろいろなことがありました。

 

まず父親が死んでいました。

誰も知られず一人暮らしのアパートで、寂しく死んでいるところが見つけられたのです。

それからサエコとユミコのいじめはますますひどくなりました。

 

いじめといっても子供たちのそれとは違います。

リエは、結婚を約束した恋人トシキを妹のユミコに奪われてしまいました。

 

リエはトシキからそのことを聞かされることになりました。

その時にリエのおなかの中にはトシキの子供がいたのです。

 

リエは、その子を一人で生んで一人で育てるつもりでいました。それは両親もタカコも、血縁のすべてを失ってしまったユミにとって、唯一の肉親となるはずでした。

しかし、サエコもユミコもそれを許しませんでした。

トシキはユミコたちにとって大きな金づるでした。彼の両親は資産家であり、彼自身も有望な企業の正社員でしたから。

今風の言葉で言うと、「優良物件」だったからです。

なのに、リエが出産したら、トシキの気持ちがその子供を通して変わってしまうかも知れません。

ユミコたちはトシキをまたそそのかしました。自分を愛する証として、絶対にリエに気持ちが戻らない証拠として、

 

、ユミコにそそのかされたトシキよって階段から突き落とされ、子供を流産してしまったのです。

 

屋上の手すりにつかまって、これまでの出来事を思い出しながらリエは、屋上から下を眺めました。

 

リエには景色がよく見えませんでした。それはその屋上があまりに高いところにあったからでも、夜だったからでもありません。リエの瞳が涙で曇って何もかもがぼやけて見えたからです。

星の光も、街の明かりも、何もかもが混じり合ってとても美しく見えました。

「天国ってこんなに美しいところなのかな?  お父さんもお母さんもそんなところにいるのかしら?」

見えなくなれば、高い場所はそんなに怖くなくなります。

 

リエが、手すりから身を乗り出そうとした時、涙でにじんだ美しい景色の中に、いきなり死んだはずの父親ヨシロウが現れたのです。

リエの涙の中のヨシロウは何も言わずじっとリエを見つめていました。

リエには、ヨシロウの表情はとっても深い悲しみをたたえてるように見えました。

「お父さん、天国に行ったんでしょ? なのになんでそんなに悲しそうなの?」

ヨシロウは何も答えません。ただじっとリエを見つめているだけでした。

 

その夜から、またしばらく長い時間が経過しました。

 

リエは生きていました。あの時飛び降りるのをやめたのです。

ヨシロウの悲しそうな顔が、リエの心を動かしたのです。

 

リエは生き続けました。たくさんの悲しみや苦しみの重荷を背負ったまま、



でも、苦しみと言うものは背負い続けていれば、だんだん軽く感じるものです。

 

それは本当に荷物が軽くなったのではなく、背負っているその人が強くなった証拠です

 

彼女は家を出て、一人暮らしを始めました。もう、トシキや継母やユミコと

関わることのない遠いところへ。

 

そして新しい仕事を見つけたのです。

 

やがて、新しい出会いがリエに訪れました。

結婚し、家を建て、子供たちが生まれたのです。

 

ある時、リエは家族を連れてお墓参りに行きました。どこまでも続く緑色の絨毯、整然と並んだ白い墓石、

あの姉のタカコを納骨した霊園です。そこには父親のヨシロウも眠っています。

 

リエは、自分の家族をタカコとヨシロウの墓石の前に並べて言いました。

「お姉さん見て、私の家族よ。私は自殺しそうになったけど、思いとどまったの。そしたらねお姉さん失ったものを全て取り返したわ。私だよ生きていてこんなに幸せがあるなんて思いもしなかったわ」

それは突然に起こった、リエの目の前でそれまであったすべてのものが消えてしまったのです。

彼女の夫も子供たちも、目の前のタカコや、ヨシロウの墓石も、いいえそれだけではありませんそこにあったすべての墓石も消えていました。

残っているのは、どこまでも続いている緑色の絨毯と、青い空だけでした。

リエ実は理解できませんでした。

「何? あなたどこいったの? 私の大事な子供たちは? みんな、みんなどこへ消えてしまったのよ? お願い私の家族を返して! どうしてこんなことが起こったの誰が私に教えてよ?」

 

すると声があった。

 

「よかったね、君はこれで天国に行けるようになったんだよ」

「タカコの自殺4」終わり

 

「タカコの自殺5」に続く0本




「天国ってこんなに美しいところなのかな? お父さんもお母さんもそんなところにいるのかしら?」

見えなくなれば、高い場所はそんなに怖くなくなります。

リエが、手すりから身を乗り出すようとした時、涙でにじんだ美しい景色の中に、いきなり死んだはずの父親ヨシロウが現れたのです。

リエの涙の中のヨシロウは何も言わずじっとリエを見つめているように思いました。

りえには、ヨシロウの表情はとっても深い悲しみをたたえていました。

「お父さん、天国に行ったはずなのになんでそんなに悲しそうなの?」

ヨシロウは何も答えません。ただじっとリエを見つめているだけでした。

 

またしばらく時間が経過しました。

 

リエは生きていました。あの時飛び降りるのをやめたのです。

 

たくさんの苦しみを背負っていたまま、リエは生き続けました。



でも、重荷と言うものは背負い続けていれば、だんだん軽く感じるものです。

 

それは本当に荷物が軽くなったのではなく、背負っているその人が強くなった証拠です。

 

彼女は家を出て、一人暮らしを始めました。もう継母やユミコと

関わることのない遠いところへ。

 

そして新しい仕事を見つけたのです。

 

やがて、新しい出会いがリエに訪れました。

結婚し、家を建て、子供たちが生まれたのです。

 

ある時、リエは家族を連れてお墓参りに行きました。どこまでも続くグリーンの絨毯、整然と並んだ白い墓石、

あの姉のタカコを納骨した霊園です。そこには父親のヨシロウも眠っていました。

 

家族でこのお墓に来るのは初めてのことでした。

リエは、生きることを選んで得られた幸せをタカコや、ヨシロウに報告したかったのです。

彼女は、夫と幼い男の子とそして生まれたばかりの女の子を胸に抱いて、こう言いました

「お父さん、たかこ見て、私の家族よ。あのとき、リ生きることを選んだおかげで、あの苦痛から逃れることができたわ。そしてささやかだけど、あな時には考えられなかった幸せを得たわ」

 

そのとき、それは突然起こったのです。

 

リエの目の前でそれまであったすべてのものが消えてしまったのでした。

彼女の夫も息子も、抱いていた赤ん坊さえ、リエの腕の中から煙のように消えてしまったのです。

それだけではありませんそこにあったすべての墓石も消えていました。

残っているのは、どこまでも続く青々とした絨毯と、青い空だけでした。




「タカコの自殺4」終わり

 

「タカコの自殺5」に続く0本





ヘタレ師範1「オープントーナメント」前半

 

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イヤだあ! ダメ、ダメ、ダメだって。 出ませんよ、絶対出ませんから!」

あまりに大きな悲鳴だった。しかも若い男の。 

そこは、男の悲鳴にはあまりのも似合わない場所だった。だって、総合格闘技のオープントーナメント会場だったのだから。

 

満員の観客は、驚いて悲鳴の主を探した。

 

選手入場口に、白い空手着にグローブをつけた若者が、数人のスタッフに囲まれて入場してきた。というより引っぱり出されてきた。その男の悲鳴だった。

まるで、

泣き叫んであばれる子供を、母親や看護婦たちが無理やり引きずっていく。

その先には、注射器を持った医者が待ち構えている。そんな風景だった。

 

「約束が違うじゃないですか、だめですよ、ボクは怖いんですったら」

どうやら、選手の一人が出場を嫌がっているようだ。

 白い空手着の男を引っ張っているスタッフの中に若い女がいた。

「しょうがないヨ。出る人が来なかった。だから、五郎ちゃんが出るしかなヨ」 

女の声は集音マイクで観客に丸聞こえだ。

強いコリヤなまりだった。しかし、その一言で白い空手着は抵抗するのを止めて、ハーッとあきらめたようなため息をついた。 

 

「何だあのヘタレ?」

「ゴロウちゃんって? ここはコンサート会場かよ?」

観客席に不思議な3人組がいた。

1人は、赤髪のツーブロックヤンキー、学生風の筋肉質の男で通称テッキ。 

もう一人はマスクにサングラスの中年大男で表情はまったくわからない。バラバラの髪を肩まで伸ばして、怪物ぜんとしている。ガンカク。

 そのテッキとガンカクにまるでガードされているかように座っているのは、金髪で唇の真っ赤な女だった。羽織っているコートは、その唇のように真っ赤に染められていた。ヤンキー女はジオン。

この3人の姿はあまりに異様で、会場が満員だったにもかかわらず3人の周りだけは観客が遠巻きにしていた。

 

テッキが会場を見ながら

「あれで出場選手かよ? 情けねえ」

ガンカク「なんであんなビビリがこんなとこ来てんだ?    素人さんはお呼びじゃないだろうに」 

ジオン「そういうなって、ここは、素人歓迎のオープントーナメント会場なんだよ。あんなのでも出場権ってのがあるんだろう」

テッキ「ここは、くじ引きで当選すれば出場できるんですよ」

ガンカク「実力ないクセに口だけは達者な空手オタクが張り切って出てきたんじゃないですかね」

ジオン「出てきたはいいけど周りの、周りの雰囲気にビビっちまったんだろうよ。まぁあのヘタレにはいいクスリになったんじゃないのかい?」

「そんなところでしょうね」

テッキやガンカクが下手に答えているところを見ると、ジオンと言う女はリーダー格なのだろう。

テッキが試合会場を指さして。

「あのヘタレ野郎、どうやらヤル気になったみたいじゃん」

 確かにあの白い空手着が、青い空手着の黒帯の選手と対峙していた。白い空手着は、帯まで白い。 

ガンカク「白帯かよ、怖がるわけだ。あのヘタレの所属道場たいしたことないんだろうな。あんな入門したての新人みたいな選手出すくらいじゃ」

 

審判の「はじめ!」の合図で試合が始まった。 

青い空手着は、目つきも鋭く自信に満ちていた。それに比べて白空手着は、腰が引けオドオドしていて、まともに相手の顔を見ることさえできない。

 

青い空手着は両手のグローブをグッと構え、白い空手着を睨みつけた。白い空手着(以下白)は、ぼーっと立ったままだ。棒立ちで、グローブもだらんと下がっている。ありえない。スキだらけだ。

 

 「キェーッ!」

青い空手着(以下青)が、裂帛の気合で飛びこんできた。白が逃げ腰でタタッと下がった。青が追い詰める。白が止まった瞬間青がパパッと連続突きを放った。白は防戦一方に見えた。しかし、青は一瞬攻撃を止めた。

青が攻撃を止めたとき、白は棒立ちではなく、前屈で立っていた。

しかし、それは一瞬のことで白はふたたび棒立ちに戻った。

 テッキが大声で

ヤレー!  なんで手止めてんだよ?  そんなヘタレ殺しちまえ!」

確かに青の方が完全に優勢なのに一瞬攻撃を止め、にらみ合っている。

でも格闘技の試合においては間合いを図ったり、相手の呼吸を読んだり、そんな事はよくあることだ。

 

再び青がグローブを構えた。

白はさっきと同じ全く棒立ちである。 

「オース!」

気合とともに青の右足が白の顔面に回し蹴りを喰らわせた。速い。

「グェ!」

つぶれたカエルのような声だった。

白は青の攻撃を交わしきれず、顔面に回し蹴りをまともに受け、倒れ込んでしまった。

審判が青の勝利を告げた。白は立ち上がれなかった。どうやら気を失っているようだ。

 

テッキ「あアあ、いわんこっちゃねーよ、情けないったらないぜ」


さっきのスタッフたちが倒れた白に駆け寄った。

白はタンカで場外に運び出されるようだ。

「ダイジョブ。よくやった」

それは先程の女性スタッフのコリヤ風の声だった。おそらく同じ道場の仲間なのだろう。

 

テッキはふっと鼻で笑い。女の声色を真似た。

「ダイジョブ、よくやったわ?って、逃げまくったあげく蹴飛ばされてノックアウトされただけじゃないか?」

 ガンカク「誰でも出場大歓迎のオープントーナメントったって、あんな素人じゃあな‥」 

 

ガンカクの言葉をさえぎって後ろから声がした。

 声「ほんまモンのシロウトは、お前たちの方だよ」

 

オープントーナメント1終わり

 

「オープントーナメント2」に続く

ヘタレ師範2「オープントーナメント」後半

 

「だいじょうぶ、よくやったわ?って、逃げまくったあげく蹴飛ばされただけじゃないか?」

 

ガンカク「どなたでも出場大歓迎のオープントーナメントったって、あんな素人じゃあな‥」 

 

ガンカクの言葉をさえぎって後ろから声がした。

 

「ほんまモンのシロウトは、お前たちの方だよ」

ガンカク「なんだと?」

3人が振り返ると、すぐ後ろの席に中年の男女が座っていた。

 

1人は短髪でゴマ塩頭の男ミヤギ。もう1人は男の連れ合いで、けばけばしくパーマをかけた厚化粧の女ミヤギの妻、通称オバサン。

 ガンカク「誰かと思ったら、くたびれたジーサンバーサンかよ、何か文句あンのか?」

ジオン「おっちゃん、いい度胸だね。みんな俺たちを怖がって、見ろよ超満員なのにこの辺だけがら空きだ。おっさんたち俺たちが怖くねえのかよ?」

 オバサンが黙ったままじっとジオンの顔を見つめた。

ジオン「何だよ? 何ガン飛ばしてんだよ?」

 オバサン「あんた、まだあんまり男知らないだろ?」

 ジオンは顔色を変えた。

 「何だと? おとなしくしてりゃエラそうなこといってんじゃねえよ。お前らジジババに俺たちの何が分かるってんだ‥?」

怒鳴りながら、ジオンは心の中でまったく別のことを考えていた。

 「(こいつら何だ? 初対面なのに、オレの男関係なんて‥なんでそんなことを? それにオレたちがシロウトって何なんだ? いやそれよりこいつら何でおれたちを怖がらないんだ?)」

 オバサンは、ジオンの心の中を見ているかのように、

 「私はね、あんたと違ってたくさんの男を知ってるし、ヤクザに囲われていたことだってあるんだ」

 とたんに横のミヤギが飲みかけのジュースを吹き出した。

 オバサン「何だよキタナいねえ。とにかく、このジイサンバーサンはね、男も女もいろいろ見てるんだ。

赤い唇のお姉さんよ、あんたがいくら髪をキンキラにして、ハデハデメイクやその赤いおべべでいくら隠してたって、アンタのそのきれいな目ん玉にはさ、ツッパリコスチューム。全然似合ってないんだよ」

 そう言いながらオバサンはミヤギの方を見た。ゴマ塩がニヤリと笑う。

「囲ったヤクザってのは、誰のことだよ?」

ガンカクが

「そんな事はどうでもいい、だがこれ以上ジオ姉(ジオネエ)にいちゃもんつけるとこの俺が黙っちゃいないからな」

 

テッキ「そりゃ確かにジオ姉の男関係ってのは気にはなりけどさ」

とたんにガンカクがテッキの頭を平手ではたいた。

テッキ「アイテ、俺はこのジジババが俺たちをトーシロ呼ばわりしたことが気に食わねえだけだよ」

 そしてミヤギの方に

「そこんとこをよ、わかりやすく説明してもらおうじゃねーか。    俺はなぁこう見えてもテコンドーの段モチだ。ムエタイもやった。でもって、そっちのでかいガンカクさんはな」

 

「ローカルとは言えプロレスラーなんだ。リングの上では、ヒールだから負け試合もあるけど、ストリートじゃなぁ、1度だって負けたことがないんだ。このジオ姉以外にはな」

ジオンがテッキを止めた

「やめろ、俺たちのプロフィールはどうだっていい。だけど」

そしてミヤギ夫婦に向き直って

「俺たちを素人扱いしたワケはきちんと教えてもらおうじゃないか」

 

オバサン「アンタらが、格闘技のプロで、とりわけ空手が好きらしいってのはよくわかったよ」

ミヤギが文句を言った。

「ちょっと待てよ?    こいつらプロレスとかテコンドーの話はしてたけど空手の事なんか一言もなかったぜ」

「だからあんたはダメなんだよ。これまで何を教わってきたのさ?」

 オバサンは三人を指さしながら「この怪物がガンカク、横の突っ張りがテッキだろ? で、その真ん中のお姉ちゃんがジオン。あんただって3年も空手を習ったんだ。まだピンとこないのかい?」

ミヤギ、はっと自分の額を叩いた。

「あっそうか、形の名前かあ、空手の形の。岩に鶴で、岩鶴。鉄に馬で、鉄騎、そして慈悲の、慈に、恩人の恩で慈恩か、はは確かにそうだ」

 

岩鶴・慈恩・鉄騎は空手の世界ではよく名の知れた形の名前である。もっとも鉄騎というのは一般的には「ナイファンチ」と呼ばれている。

 

「いい加減にしろい!」

三人がそう怒鳴りつけた。

ジオン「ごちゃごちゃぬかしてねえでさっさと俺たちを素人扱いしたわけを言え!」

 

かなりの大声で遠巻きの観客たちさえびっくりするほどだったが、ミヤギとオバサンは一向に気に留めず。

オバサン「それは難しいねぇ」

テッキ「なんだと?    俺たちをコケにしておきながらこのままで済むと思ってんのか?」

 

ミヤギ「おめえら、あの試合で青い空手着が勝ったと思ってるんだろ」?

ジオン「そうじゃないってのか?」

オバサンは無視して続けた。

 オバサン「あの試合で、白いほうが、棒立ちだったのは、ビビってるからだと?」

 ガンカク「にきまってるだろうが、あんな突っ立って戦えるかよ?」

 ミヤギ「青が白を責めたとき、一瞬止まったことがあったろう。あれは?」

 テッキ「あれは? って何もったいぶってんだよ。あんなの試合じゃよくあることだろうが」

 ミヤギ「ふんそうかい?」とオバサンと顔を見合わせてニヤリとした。

 ガンカク「何二人だけで納得してんだ? 早いとこ白状しねえと、それこそ泣きをみることになるぞ」

 オバサン「やっぱりあんたらは、シロウトだよ。この程度のことも見抜けないんだから」

 

ジオン「だったら早く説明しろよ。年寄りが、イライラさせやがって」

ミヤギ「説明、説明って、そんな大事なこと、こんな大勢の前で、しかもこんなとこに座ったまま説明できっかよ。

それとも何か?    お前さんたちの自慢のテコンドーとかプロレス技は、椅子に座ったまま教えてもらってきたのか?    

もし俺たちにシロウト扱いされたのがそんなにくやしいのなら、その理由を知りたいんだったら、俺たちの道場へ来な」

 オバサン「そしたらさぁ、五郎ちゃん流の空手をさあ、手取り足取り教えてあげるからよ」

 

 五郎ちゃん? ジオンは思い出した

「(そういえばさっき、あの回し蹴りで気絶してタンカでかつぎ出されたあの男、確か五郎ちゃんて呼ばれていなかったっけ?)」 

オープントーナメント2終わり

 

 ヘタレ師範3「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半 に続く

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へつづく

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ヘタレ師範3 「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半

 ジオン、ガンカク、テッキ、この3人は不思議な目的でつながっている。

その目的とは道場破りだった。

彼らは暴走族のようにバイクにまたがって、いたる所で道場を荒らしまわっていた。

 

時代劇の道場破りは

「先生に一手ご指南願いたい」

と最初に頭を下げる。

 道場側は、下っ端の弟子から相手をさせる。先生に一手ご指南を受けるまでには、弟子数名そして師範代、師範とだんだん強い相手と戦わなければならない。段階があるのだ。

 戦う人数が多いほど道場破りが途中で負けてしまう可能性が大きいし、勝ち残ったとしても相当疲れているはずである。

最後に戦う師範にはとても有利だ。

 それでも、道場破りが師範を倒した時、道場破りはその道場の看板を奪っていくと脅す。

 道場側は、看板を奪われては面目丸つぶれである。何とか金で解決しようとする。それが道場破りの商売なのである。

 

 しかし、ジオンたちの道場破りはこんな古風なスタイルではなかった。

 最初に彼らはターゲットになりそうな道場をいろんな方法で探す。

ネットでググったり、直接調べるのはもちろん、オープントーナメントや、公式の試合などに観客を装って偵察するのだ。

だからといって弱そうな道場をさがしたりはしない。あえて強い道場を探す。

 オープントーナメントで優勝するような道場はよいカモなのだ。

実力がある選手を輩出するような道場は資金が潤沢だ。そしてプライドが高い。

道場破りに負けたって金を出し渋ったり警察に届けるようなヤボは絶対にしない。

負けたことを吹聴でもされたら、道場の面目は丸つぶれではないか。

 

 

 ジオンたちの道場破りでの戦い方はと風変わりな方法だった。

彼らは道場に乗り込む衣装にもこだわりがあって、いつも暴走族スタイルか、派手なコスプレで、相手に乗り込む。奇抜なスタイルが道場破りにとても効果的なことを彼らは知っていた。

 夜、ハロウィンの化け物ようないでたちで、いきなり道場やジムのドアを蹴破る勢いで突撃するのだ。

そして道場生たちがあっけにとられているうちに、大男のガンカクが化け物スタイルで

「おい、戦いに来てやったぜ。ここの師範は誰だ?」とか「こン中で1番強い奴は誰だ?」とたたみかける。決して下っ端から戦うようなことはしない。最初から上しか相手にしない。

 ほとんどの道場や格闘技ジムの連中は、この段階でジオンたちに完全に気を飲まれてしまう。

 そして、師範や一番強いヤツ? が出てきた瞬間、3人のうちの1人がいきなり飛びついて、ボコボコにノシてしまうのだ。

 

どんな戦いも、最初に大将を倒すのは常道だ。師範代や、リーダー格さえ倒してしまえば、残された道場生やボクサーたちは、完全に戦意を喪失してしまう。

 

3人のうちの1人といったが、最初に戦うのはたいていはテッキである。

 テッキはテコンドーの有段者でムエタイのアマチュア選手だった。だが、ジオンやガンカクの実力にはまだまだ及ばない。

 そうはいっても戦い方が荒っぽく、礼儀もルールも無視した突撃スタイルなのでたいてい彼1人で充分だった。

 しかしときには本物の実力者もいるし、道場破りに慣れている手合いもいる。

 そんな時はガンカクの出番である。

 

ガンカクはプロレスラーである。寝技や、ジュージュツが得意である。

 空手やボクシングなどの立ち技主体の格闘技は、寝技に持ち込まれるとほとんどどうすることもできない。

 と言うわけで道場破りのほとんどは、テッキとガンカクだけで終わってしまう。

 

そのように、最初に師範などの大物を倒しているので後は話が早い、カタキを取ろうなどと考える弟子なんていない。

すぐに金になった。

 

そりゃそうだろう。道場破りに負けたなんて評判を立てるわけにはいかないのだ。

今はネットの時代だ。写真でも撮られてしまったらあっという間に拡散して、商売にならなくなってしまうのだ。

ジオンたちは格闘家たちのそのような弱点をよく知っていた。

 

ではジオンの役割は何なのだろうか?

実は、最初にこの道場破りを提案したのはジオンだった。

 「慈恩・岩鶴・鉄騎」前半 終わり

 

 

ヘタレ師範4「慈恩・岩鶴・鉄騎」後半につづく

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ヘタレ師範4 「慈恩・岩鶴・鉄騎」後半

 ある時、闇サイトにこんなブログが載っていた。

格闘技経験者求む。、ただし、このブログの管理者と手合わせして実力を認められた者に限る」

そして管理者の名前は「慈恩」とあった。

 

そのサイトを見つけたガンカクは応募した。

ほんの好奇心からだった。

 

連絡するとジオンから街外れの公園に呼び出された。

 

 

ガンカクと対峙したのはジオンだった。

テッキのほうは化け物のようなガンカクを見た瞬間から腰が引けているのがよくわかった。

 

しかし、女の方は、自分より2倍以上大きな相手を前にしても、眉一つ動かさなかった。

 

ガンカクは、ジオンが若い女だと知って本当は戦いたくはなかった。

女は所詮男にはかなわないと言う先入観があったのだ。

それは、ガンカクの優しさと言うより、女に勝っても自慢にはならないし、もし負けでもしたら…。

 

一方ジオンは、これまで何人もの男達と戦ってきた。だからガンカクが、心の中で考えていることはすぐにわかった。

 

「怪物さんよー、心配しなさんな。あんたが負けたとしても誰にも言わないからさ」

ガンカクは思わず、ジオンの横に家来のように控えているテッキの方を見てしまった。

そしてしまった! と思った。

 

ジオンはふっと笑みを浮かべて

「大丈夫だよ、その男は何も言いやしないよ。」

ガンカクはまたしてもこの女に心の中を見透かされたのだ。

自分はまだ戦いもしていないのにこの女に飲み込まれてしまっていると思った。

 

女は続けた

「この男、テッキと言うんだけど」

ガンカク「テッキ? 日本人にしちゃヘンな名前だな、ゴロも良くねえ」

「テッキはオタクと同じさぁ、俺のサイトに応募して、オレと、ここでこうやって戦ってね。

 

テコンドーとムエタイが得意だとイキがってたが、一発だったぜ、蹴りのたった一発でオレの足元に這いつくばりやがったのさ。

テッキという名前は、その時にオレがつけてやったんだよ。

それ以来オレの後にくっついてるってわけだ。」

 

「(この女は戦って負けた男を自分の奴隷にしているのか? 俺も負けたらこの女の言いなりになるのか?)」

ガンカクの心の中にそんな思いが浮かんだが、それは一瞬のことだった。

 

しかしジオンは

「オレはテッキに子分になれとも言ったことなんかないし、テッキはおたくが負けたからっていいふらしたりたりする男じゃねーよ。そんな心配は全然ないんだよ」

 

確かにそうだろう。ガンカクが負けたとしても、テッキがそれを言い触らすなんて事は万が一にもありえない。だって、それはテッキ自身がこの女に負けたことを自ら吹聴するようなものだから。

 

女は自分を管理者のジオンだと名乗った。ガンカクはウェブサイトの管理人「慈恩」の文字を思い出した。

 

ガンカクは虚勢を取り戻して

「ジオン? そりゃどこの国の名前だ? あんた日本人?」

 

茶化したつもりだったが、女は無表情のまま

「オレは名乗ったぜ」

男のような言葉だった。女の顔の美しさにそれをより引き立てた。

ガンカク 「俺の名前はなぁ、あんたが俺に勝ったら教えてやるよ」

ジオン「名前なんて必要ないよ。どうせオタクはそこに這いつくばるだろうからね。そしたらその時には、オレが名前をつけてやるよ、ガンカクという立派な名前をな」

 

「ふざけるな!  俺はプロの格闘家だ。空手もやったことあるさ。女の腕じゃあ‥‥」

その言葉が全部終わらないうちにガンカクは2メートルも後に吹き飛ばされていた。女の前蹴りを喰らったのだ。空手の技の中では、基本的な蹴り技だ。

 

しかし、ガンカクにはまるでジオンの動きが見えなかった。それほど速い蹴りだった、ガンカク跳ね起きて

「何しやがる? 挨拶もなくいきなり」

またしてもガンカクは後ろに飛ばされた。また前蹴りだった。しかしガンカクは今度は起き上がることができなかった。

ジオンはニヤリと不気味な表情を見せて横で見ているテッキに

「さすがプロの格闘家じゃねーか。オレの蹴りを二発も喰らってまだじたばたしてるぜ。テッキの時は一発だったのによー」

 

2発の前蹴りは、それほどまで威力があった。こんな経験は初めてだった。

 

現役のプロレスラーのこの俺が、、、ガンカクは何とか体を立て直そうとしたがふらふらとよろめくだけだった。

女がこういった

「オレの親父が、教えてくれたんだよ『男と戦う時は手を抜くな、でないと命も純潔も失うことになる』ってな」

そして女の回し蹴りが猛烈なビンタにのようにガンカクの顔面に炸裂した。

ガンカクは意識を保っていることができなかった。

 

それ以降、ガンカクもジオンの子分のようになった。

 

ガンカクは実はジオンの子分になったことをどこか喜んでいるようなところがあった。

なんというか、大柄なガンカクが明らかに華奢なジオンに寄り添っているところは、まるでボディーガードか父親のように見えた。

 

彼らが道場破りを始めたのはその頃からだった。

 

しかし

ガンカクもテッキも道場破りが面白くて参加してはいたが、ジオンがなんでそんなに他の道場に押し掛けて道場破りに汗を流すのか、その理由はわからなかった。

 「慈恩・岩鶴・鉄騎」後半終わり

 

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